★ 「起承転結を忘れろ!TEDが起こしたプレゼンテーション革命」のノート【第79号別冊】
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さて,本誌【第79号】でお伝えした「起承転結を忘れろ!TEDが起こしたプレゼンテーション革命」について,執筆時に参考にした情報をまとめます.
別冊はもっと勉強したい方向けの「足がかり」や余談としてお送りするものです.お時間のある時にお楽しみ頂ければ幸いです.
(Cover Photo by TEDxKobe)
アーギュメントとステートメントの違い
僕たちが TEDxSaikai というTEDxイベントを長崎で始めたときに,同僚の英語ライティング講師で,アイルランド出身のウィルさんにスピーカーコーチをお願いしました.
彼とはプレゼンテーションについて長く議論をしたのですが,その中で彼から「どのようにしたら日本人(日本で教育を受けてきた学生)に,プレゼンテーションの本質を伝えられるか」という質問が出ました.僕はしばらく考えてから「たぶん僕たちは,アーギュメント(argument)とステートメント(statement)の違いを教わってない.その違いを教えたら,理解が進むかもしれない」と伝えました.
本来プレゼンテーションはアーギュメント(論証)でなければならないのです.しかし,日本ではステートメント(提示・表明)だけの「なんちゃって」プレゼンテーションがいくつも見られます.
ステートメントは事実の提示や仮説の表明など,それ単体では論理構造を持たないものです.アーギュメントとは,ステートメントを論理的に結びつけたものです.
アーギュメントについて,エジプトのカイロアメリカ大学(AUC)のウェブサイトに良い説明がありました.一部を翻訳してみます.
アーギュメントはレポートではありません.レポートとは,あるテーマについての情報を伝えるだけで,そのテーマについて立場をとることはありません.例えば,百科事典に載っている情報はレポートです.
アーギュメントは,裏付けのない主張ではありません.裏付けのない主張は,信念を述べているに過ぎません.このような主張は議論の一部になりえますが,それ自体は議論ではありません.例えば「死刑制度は間違っている」というのは信念の主張ですが,アーギュメントではありません.
アーギュメントは条件文ではありません.条件文とは「もしも…ならば…」という文のことです.これらの文はアーギュメントの一部であるかもしれませんが,それ自体はアーギュメントではありません.例えば「もし私がお金持ちだったら,私は幸せになる」というのは,条件文ではありますが,アーギュメントではありません.
アーギュメントは例証ではありません.例証は例を示すものです.例をアーギュメントの前提にすることはあっても,ひとつの例はアーギュメントにはなりません.例えば次のような例は,説明にはなっていますが,アーギュメントにはなっていません.「お金持ちは幸せだ.有名人やその生活を見ればわかる.」
アーギュメントは説明ではありません.説明は何かがなぜそうなのかを示しますが,アーギュメントは何かがそうであることを証明します.例えば「お腹がすいていたから食べた」は説明ですが,話し手は「食べた」を証明しようとはしていません.話し手は,なぜ食べたのかを説明しただけなのです.
本誌第79号でご紹介した本「TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド」でもアーギュメントの重要性が主張されています.
ただし,書籍「賢い人がなぜ決断を誤るのか」は,アーギュメントの頑健性と主張の正しさを取り違えてしまうバイアスがあることを警告しています.
これはTEDx運営者全員が肝に銘じておくべき事なのでしょう.