起承転結を忘れろ!TEDが起こしたプレゼンテーション革命【第79号】

「起承転結」は詩の形式であって文章の形式ではありません
金谷一朗(いち) 2022.05.20
誰でも

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【140字まとめ】日本人がついついやりがちな「起承転結」で文章を書いてしまうという失敗についてお話しします.なぜか「起承転結」で書けと学校で教わってしまうんですよね.でも起承転結は本当に忘れて下さい.伝わらないんです.Q&Aも盛りだくさんなので是非お読み下さいね.

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STEAM NEWS は毎週届くニュースレターです.国内外のSTEAM分野(科学・技術・工学・アート・数学)に関するニュースを面白く解説するほか,おすすめ書籍,TEDトークもお届けします.芸術系や人文系の学生さんや教育関係者の方,古代エジプト好きな方に特におすすめです.

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いちです,おはようございます.

TEDxKobe がいよいよ今週末に迫ってきました.ライブ配信チケットも無料で出ていますので,是非ご視聴になってくださいね.

TEDxイベントは後日に録画が公開されますが,録画は編集済みなのに対して,ライブ配信は本当の「生」なんですよ.つまりですね「格好悪い」ところも放送されちゃうんです.

これはTEDxイベントに限らず,本家TEDでもそうなんです.TEDのあの格好良いプレゼンテーションも,生で見てみると割としょぼかったりします.

…と,ハードルを上げたのか下げたのか分からない状態で,今週のテーマに参りましょう.

【お知らせ】ツイッターで「STEAMコミュニティ」を運営しています.アカウントをお持ちの方は是非ご参加ください.

《目次》

  • アレクサンダー大王に必要だった「説得の技術」

  • 起承転結を捨てなさい

  • TEDxKyotoで実践した修辞学

  • 建築家は椅子を,ファッションデザイナは香水をデザインする

  • おすすめ書籍:TED TALKS スーパープレゼンを学ぶTED公式ガイド

  • おすすめTEDxトーク:違いを認め尊ぶこと

  • Q&A

  • 一伍一什のはなし

アレクサンダー大王に必要だった「説得の技術」

古代ギリシアの王アレクサンドロス3世(アレクサンダー大王)は,歴史上,世界で2番目に広い面積を支配した王です.

ということは,征服した土地に「アレクサンドロス3世は偉いのだ」と説得してまわる必要があったわけですね.文化も風習も異なる人々をどのように説得したのでしょうか.

鍵となるのは,アレクサンドロス3世の家庭教師,紀元前4世紀の人,哲学者アリストテレスです.彼は「弁論術(レートリケー)」という本を著し,人々を説得する技術を整理しました.彼の技術は「修辞学(レトリック)」と訳され,大学の一般教養科目つまり「リベラルアーツ」のひとつになっていますが,むしろ「プレゼンテーションの技法」と呼んだ方が分かりよいでしょう.

アリストテレスの「弁術論」では,説得手段として理屈(ロゴス),情熱(パトス),そして話し手の人柄(エートス)を挙げていますが,中心に据えたのは理屈でした.

ヨーロッパでは言葉を発するための修辞学に加えて,言葉を聞くための「文法学」と,理解の骨格になる「論理学」の三つを併せて「トリティウム(三学)」と呼んで,最も基本的な学問としました.この姿勢は現在にまで繋がっています.また修辞学の中身も多民族の集まりであるヨーロッパを中心に長い年月をかけて洗練されていきました.

起承転結を捨てなさい

ところで,日本語では文章の構成のことを「起承転結」と呼びます.これを真に受けて,本当に文章を「起」「承」「転」「結」の構成にすることも行われていますし,あまつさえ学校で指導されることもあります.

しかし「起承転結」という構造は文章を非常に読みづらくすることになります.少なくとも,文章の論理構造としては「全く」受け入れられません.これは欧米流の修辞学がグローバルスタンダードだという議論ではなく,日本人が日本語で書かれた「起承転結」を読んでも,その論理構造が理解できないという意味です.日本語でも論理的な話は書けるので,日本語の問題ではなく,起承転結という構造の問題です.

そもそも起承転結は漢詩の「絶句」の構成です.例えば,唐の詩人「杜甫」の五言絶句に

【起】江碧鳥逾白(川の水は深緑で鳥はますます白く見え)

【承】山青花欲燃(山は新緑で花は燃えさからんばかりに赤く見える)

【転】今春看又過(今年の春も見ているうちにまたもや過ぎ去ろうとしている)

【結】何日是帰年(一体いつになれば故郷に帰れる年がくるというのか)

という,情景が浮かび上がるような詩がありますが,これは起承転結の名作と言えるでしょう.日本語の俗謡にも起承転結が輸入されていますが,これもエンタテイメントとして傑作ではないでしょうか.こんな感じです.

【起】大阪本町 糸屋の娘

【承】姉は十六 妹が十四

【転】諸国大名は 弓矢で殺す

【結】糸屋の娘は 目で殺す

目で殺されるんですよね,わかります.

いや,そっちちゃう.

アート作品やエンタテインメント作品としての起承転結は,効果的に使えればリズム感を生じて,大変美しいと思いますし,世界的な評価もされています.

しかし「アイディアを伝える」「説得する」「プレゼンテーションを行う」という場面では,起承転結の出番はありません.特に困るのが「転」です.「転」は伝えたいアイディアと論理的にかけ離れているのです.また「起」が冒頭なのも,現代のプレゼンテーションには向いていません.聞いている人の忍耐力が極限まで小さいからです.

では,欧米の修辞学では,どのように書くことが良いと教えているのでしょうか.

この点に関しては,アリストテレスの言い分が正しいのです.一言で言えば「理屈でぶん殴れ」でしょう.まず「主題」を伝え,それをサポートする理由を述べて,最後にもう一度主題を繰り返すのです.

1984年に始まった「TEDカンファレンス」では,それに加えて現代向けにいくつかのルールが追加されています.

TEDxKyotoで実践した修辞学

TEDカンファレンスを創始した建築家リチャード・ソール・ワーマン (Richard Saul Wurman) は「情報建築」という言葉を作り出しました.彼は「アイディアを伝える『プレゼンテーション』はこうあるべき」というルールを提案し,TEDカンファレンスで実践したのです.

そのルールは,当初はこういったものでした.

  • 1 回の講演のトピックはひとつだけに制限される

  • ひとりの講演者の持ち時間は最大 18 分であり,一般にはより短い持ち時間のみが与えられる

  • 質疑応答の時間は一部の例外を除いて用意されず, 発表後の交流会が質疑応答の時間にあてられる

  • 講演者は挨拶,自己紹介を行わず,講演のアウトラインを冒頭に話すことも無い

  • スライドやビデオの使用は推奨される

  • ポインタは使用されない

  • ポディウム(演台)は推奨されない

TEDカンファレンスが現在の運営者クリス・アンダーソンに引き継がれたときに,これらのルールは少し緩められました.

リチャード・ソール・ワーマンもクリス・アンダーソンも,修辞学について明示的には触れていません.しかし当初のTEDカンファレンスの映像を見ると,概ね「自分はこんな問題を解決したよ(結)」「なぜこの問題が大事なのか話すよ(起)」「自分はこんな…(結)」というシンプルな構造になっているものが多いです.

クリス・アンダーソンはTEDを引き継いだあと,世界各地でTEDのローカル版を開催する「TEDx」というライセンス供与を開始します.

僕はこのTEDxの京都版である TEDxKyoto のプロデューサ・キュレータを5年ほど務めていました.そのとき,学校で修辞学を習っていない日本人スピーカーの方にお願いしていた発表のスタイルがあります.TEDxKyoto ではスピーカーに以下の論理構造のいずれかに従ってトークを組み立てて貰うことを依頼していました.

  • Chronological 時系列によって情報を紹介する

  • Cause and Effect (Problem and Solution) まず結果を示し,次に原因を示す(まず問題を示し,次にその解法を示す)

  • Contrast and Similarity 情報Aと情報Bとを比較して,その違いまたは類似性を紹介する

  • Classification and Definition 情報を部分に分割する方法とその結果を紹介する

これは英語圏で言われる「修辞のモード (rhetorical modes)」や,修辞学の教科書 “Modes of Discourse” で書かれている構造のうち,近代的な英文によく見られ,またプレゼンテーションに適していると僕が判断した4種類のスタイルなのです.

「起」「承」「転」「結」の文字を使うと,1番目は「起承結」に,2番目以下は「結起結」または「結起承結」になります.

このようにして仕上がったプレゼンテーションは,トークが日本語で行われていても,日本人のみならず欧米圏の教育を受けた人々にも論理構造が伝わり,高い評価を受けています.

建築家は椅子を,ファッションデザイナは香水をデザインする

著名な建築家はやがて椅子をデザインしはじめます.著名なファッションデザイナはやがて香水をデザインしはじめます.

究極の建築は屋根のない椅子であり,究極のファッションは目に見えない香りであると言うことかもしれませんね.

TEDカンファレンス創設者のリチャード・ソール・ワーマンもTEDを手放した後,WWWカンファレンスや555カンファレンスという異なる種類のカンファレンスを開催しています.こちらはなんと,構造が無いカンファレンスでした.

構造が無いカンファレンスという設定が無理だったのか,ワーマンがやる気を失ったのかはわかりませんが,TEDカンファレンスが続いている一方,WWWカンファレンス,555カンファレンスは後が続いていないようです.もっとも,構造の無いカンファレンスとしては「アンカンファレンス (unconference)」という設計が「そこそこ」受け入れられているようには感じます.実は僕の STEAM NEWS も開始前に数回「STEAMアンカンファレンス」を実施しています.(嗚呼,またやりたい.)

TEDカンファレンスも,ワーマンが当初行った設計よりは緩い設計へと移行しましたが,それでもインターネット時代の新しい「修辞学」を求めて試行錯誤しているように見えます.

STEAM NEWS 読者の皆さんもどうかTEDやTEDxを通して,新しい修辞学を見てください.そしてどうか,いつの日かTEDxで発表してみてください.

そのために,僕自身,新しくTEDxのライセンスを取得しました. 是非,あなたが伝えたいアイディアを僕に送って下さい.

おすすめ書籍

ケリー・マクゴニガル,ビル・ゲイツ,アル・ゴア,ケン・ロビンソンなどが登場し, 世界中が注目するカンファレンス「TED」忘れられないプレゼンを生み出す舞台裏とノウハウをTED代表のクリス・アンダーソンが自ら解説する初めての公式ガイド! 人前で話すのが怖くない人なんていない.それは,失うものが大きいからだ.だけど,心がけ次第で,恐怖をエネルギーに変えられる.プレゼンの能力は,生まれつきの才能ではない.だれでもが自分に合ったやり方を見つけて,上手に話す技術を身につけられる.■TEDのノウハウを代表自ら解説! プレゼンの天才のように見えるTED登壇者も,実はTEDスタッフからのアドバイスをもとにリハーサルを重ねています.暗記するのかしないのか? スライドの色やフォントはどうするのか? ストーリーをどう組み立てるのか? など具体的な21のノウハウを解説します.■絶対に失敗する「やってはいけないNG」も教えます.TED形式のプレゼンでも,聞き手がイライラしたり,退屈してスマホを見たりすることもある.実際本書では,著者がプレゼンの途中で割って入ったTEDトーク,酷評を受けてネットで公開しなかったTEDトークの例も登場する.プレゼンで絶対にしてはいけないことも紹介します.
Amazon

リチャード・ソール・ワーマンからTEDカンファレンスを引き継いだクリス・アンダーソンが書いた本です.

この本に書かれた心構えやテクニックは,きっとビジネスや学校で役に立つでしょう.

僕もいま,ものすごい勢いで読み直しています.

おすすめTEDxトーク

人は皆,基本的に全員同じだと思っていたら考え直すべきです.人と人とが共有する素晴らしい物事の中でも,個人と個人の間にある「違い」がいかに重要であるか,パトリック・リネハンが説きます.(字幕 Takahiro Shimpo,字幕校正 Akinori Oyama)
TEDxKyoto

僕たちTEDxKyotoチームが皆様にお届けしたトークなのですが,僕が舞台袖で「ぎゃん泣き」したトークのひとつです.いや,白状すると僕は結構舞台袖でぎゃん泣きしているのですが,この動画はその後何度も泣いているんです.

パトリック・リネハンは米国の日本総領事で,パブリック・スピーキングの名人なのですが,それでもTEDxKyoto創始者のジェイ・クラパーキや「プレゼンテーションZen」執筆者ガー・レイノルズのコーチングでトークをブラッシュアップしてくれました.

本当にパワフルで伝わるストーリーなので,是非ご覧になって下さい.

題字は書家の川尾朋子さんです.

Q&A

匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.

今週はQuoraのこちらの質問から.

日本語で良い文章を書くにはどうしたら良いでしょうか?
Quora

以下はネットの匿名投稿を僕が2006年9月8日に拾ったものです.

やや唐突ですが僕の友人のユダヤ系アメリカ人から面白いメモをもらったので,本人了解のもと転載します(名前は一応仮名にしておきます).原文は英語ですが適当に訳してみました.事実誤認など突っ込みどころ満載なんですがあまりに面白いのでそのままにしてあります.

そして,このように続いていました.

「日本語で上手な文章を書くには」

アイザック・シュワルツ(仮名)

私たちには日本の公立学校に通う小学6年生の娘がいる.彼女は小学生になる前から日本で暮らしているため日本語には不自由していないのだが,毎年の夏休みの課題でどうしても良い評価をもらえないものがある.読書感想文だ.

日本の小学校には課題図書というものがあり,全国の小学生たちはみな同じ本を読んでそれについて感想文を書くことになっている.どうやら私の娘は今年もまた良い評価をもらえなかったようだ.

妻と私自身はアメリカで教育を受けており,娘にはどのように文章を構成するかについて一通り教育をしてきたつもりだ.しかしことここに至って,私たちは根本的に何かが間違っているように思えてきたのだ.

そこで,娘から伝え聞いた教師の評価や,日本でいわゆる名文といわれている文章を調査した結果,少なくとも日米では「良い文章」といわれているものに大きな違いがあることがわかってきた.

以下はその違いをもとに私なりにまとめた,日本語で上手な文章を書くための「べからず(Don’ts)」リストだ.私たちと同様にアメリカで教育を受けた皆さんには信じられない内容だろうが,日本ではこのような特徴を持った文章が――小学生の読書感想文に限らず,新聞の社説でも――良いとされているのだ.何かの参考になれば幸いだ(娘の成績向上とか).

ところで,私の目下の悩みは,こうした特長を持った日本的「名文」を書くよう,娘を指導するかどうかというものだ.何しろ私自身,このような文章を書くことについてはとても自信があるとはいえない.こうして今書いている文章ですら,自分で挙げた「べからず」をひとつとして守っていないのだから...

日本語で上手な文章を書くには:10の「べからず」

(1) 何について述べている文章なのかは最後まで明らかにしてはいけない

日本では,何を問題としているのか,何がテーマなのかが最後までわからない文章が良いとされている.冒頭で目的を述べるなどはもってのほかだ.

具体的には「一度テーマらしきものを述べた後,すぐにそれを否定し,代わりのテーマは最後まで明らかにしない」といった手法が挙げられる.日本では非常に多用されるレトリックだ.

(2) わかりやすい構成の文章を書いてはいけない

通常の文章構成である,イントロダクション,主題,結論,という三部構成は,日本ではあまりに型にはまりすぎており面白みのないものとされている.

曖昧模糊として脱線,反復や省略が多く,読者それぞれに異なる印象を残す文章が「良い文章」なのだ.

(3) 結論を冒頭に述べてはいけない

我々にとっては一般的な結論を冒頭で述べることは,日本では「味気ない」ものとされている.読者の楽しみを奪ってしまうためだ.

(4) 結論を最後に述べてもいけない

皆さんは驚かれるかもしれないが,日本語の良い文章とされるためには,結論は最後に述べてもいけないのだ.

それでは結論はどこに,と思われるだろうが,とにかく結論らしきものは文章のどの場所であっても明確に述べてはならない.日本では,結論を明確に述べるのは文章の余韻を殺す,ぶしつけなものとされているのだ.

代わりに,まるで俳句のように,結論は読者が行間――文脈(context)とやや似た概念だがより幅が広い――を「読む」ことで見つけるものとされている.当然読者により「結論」は異なるわけだが,日本ではそのような解釈の多様性の存在――曖昧さとも言うが――が良いとされているのだ.

これは非常に高度なテクニックであるため,身に着けるには長期に渡る修練が必要となるだろう.正直今の私にはとてもこのような文章は書くことはできない.

ただ,手っ取り早くそれらしい文章を書くには,「べからず1」と同様に,「一度結論らしきものを述べた後,すぐにそれを否定し,しかし代わりとなる結論は述べない」という手法が使えるだろう.

(5) ひとつひとつの文章はできるだけ長く曖昧なものとしなければいけない

日本では,接続詞を多用し,ひとつの文章をできる限り長くするべきとされている.途中で主語や述べている対象が変わったり,文の最初と最後で正反対の主張をしているように見える文章が,味わい深い良い文章なのだ(何度読んでも何も言っていないように読める文章はもっと良い).

同様に,パラグラフもなるべく改行をせずに,話題が変わってもそのまま続けて長く書くことが望ましい.

(6) 主張は断言せず,曖昧に述べなくてはいけない

どんなに根拠のある主張であっても,それを明確に言い切ってはいけない.「...と思う」「…ではないか」など,自信無げに述べるのがつつましく奥ゆかしい名文の条件だ.

また,できることなら,自分が主張しているのではなく,誰かがそう言っている,と述べる方が良い.特定の誰かでも良いが,「大衆」などの曖昧な主語を用いるのがより望ましい.この場合,著者は「大衆」には含まれないのは暗黙の了解とされる.

達人ともなると,誰がそのような主張をしているのか,まったく特定することができないような文章を書くものだ.感服せざるを得ない.

(7) 主張の根拠を明示してはいけない

我々はひとつの主張につき最低三つはサポートとなる議論を用意するべき,と教えられるものだが,日本ではこうした形式をとってはいけない.引用は許されるが,出典は記述してはならない.あまりに形式ばった文とされるためだ.

(8) 客観的な記述は控えなくてはならない

何かの理由を述べるときは,なるべく主観的に,自分自身の印象,感情や経験に基いて述べるべきだ.誰かがそういっていた,という伝聞や,昔読んだ歴史小説などに基くのも好ましく,事実多用されている(ただし出典は明記してはならない).

客観的な事実を具体的な事例やデータと共に挙げることは間違ってもしてはならない.押し付けがましくなり,文章の品格がなくなるからだ.

(9) 他人の主張を批評してはいけない

日本では,誰かが書いたものを批評することは,もっともしてはいけないこととされている.どんなに冷静な批評であっても,全人格的な侮辱としてとらえられるからだ.

更に,我々には信じがたいことだが,ある人の主張を批判的に検討することすら,その人への侮辱であると考えられている.日本では,誰かの主張を特定し具体的な批評を行うことは,非常に品性のない行為とされているのだ.従って,他人が書いたものを批評するときは,曖昧に行わなくてはならない.ここでも,一度書いたことをすぐに否定する,というレトリックが多用される.また,「うまく言えないのだが…」「言葉にならないのだが…」などを用いて,自らに非があるように見せかけるのも良いだろう.

私見だが,これは曖昧な結論の多様な可能性の中からひとつだけを取り出して批評するという行為が好ましくないとされていることに起因しているように思える.文章とはすなわちその人の作品であるから,読者はそれを部分に刻まずに,多様な結論の可能性をそのまま受け入れるべきなのだ.

(10) どうしても他人の主張を批評する必要がある場合は,主張そのものではなく,その人の生い立ちや人となりについて述べなくてはならない

これも我々には信じがたいことだが,日本では,他人の主張そのものについての批評は避けられているが,その人の人格に関する論評は大いに行われている.

つまり,ある主張について具体的に検討したい場合は,主張そのものを扱うのではなく,著者の生まれや育ち,人となり,また思想信条を問題としなければならないのだ.

残念ながら,この理由についてだけは,私には今回の調査では皆目見当がつかなかった.娘の進学のためにも,今後も継続して日本的名文の秘密に迫っていくつもりだ.

引用終わり.

このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.

一伍一什のはなし

もう,頭の中でヨーロッパの “Final Countdown” という曲が鳴り響いています.そう言えばミュージックビデオは無かったかなと思って検索してみると “The worst cover ever” という酷いコピーバンドにあたってしまって,さらに腰が砕けています.観ちゃだめです.

さて,今週は「TEDが起こしたプレゼンテーション革命」の具体的な中身や,欧米で教えられている「修辞学」について,具体的に踏み込む前に紙面(というより時間)が尽きてしまいました.また改めてお送りしたいと思います.

TEDxKobe 2022 の本番が終わったら,裏話もしてみますね.

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では,また来週,お目にかかりましょう.

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金谷一朗(いち)

TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピュータ代表・長崎大学情報データ科学部教授

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