【第25号】ハイレゾ・ロスレス音源てなんだ?

アップルミュージックがついに対応したハイレゾ・ロスレス音源について情報科学の視点から解説
金谷一朗(いち)
2021.05.28
読者限定

このレターには音声版があります

いちです,おはようございます.

今週の皆既月食,日本の多くの地域で曇り空になってしまい,残念でした.皆既月食に合わせて,月にまつわる伝説や日本の神社もご紹介させていただいたので,よろしければバックナンバーをチェックしてみてくださいね.

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さて,今週2本目の配信になります.レギュラー配信となるこの号では,先週アップルが自社の音楽配信サービス「アップルミュージック」で開始した音楽の「ハイレゾ・ロスレス配信」についてお話ししたいと思います.

ハイレゾ・ロスレス配信にはふたつの要素,すなわち「ハイレゾ」と「ロスレス」が入っています.どちらも「情報科学」と密接に関係する言葉なので,できるだけわかりやすく説明してみますね.

ハイレゾ

ハイレゾは英語の「ハイレゾリューション (high resolution)」つまり「高解像度」の略です.といっても,どの程度の解像度からが「高い(ハイ)」なのかとか,そもそも解像度とは何ぞやと言うことは,特に決まりがありません.一応,なんとなく業界で共有されている「雰囲気」みたいなものがあったり,業種によっては「ローカルルール」みたいなものはあります.

それを説明するために,まず「解像度」についてお話ししましょう.解像度という言葉は,おそらくは音楽よりも先に写真に対して使われたように思います.

フィルムカメラの時代から,レンズの「解像度」は話題になっていました.この時代は解像度よりも「解像力」という呼ばれ方をしていましたので,現在でも解像度と解像力を区別する流儀があるのですが,ここでは解像度で統一します.

レンズのテストパターンの例 (ISO 12233)
レンズのテストパターンの例 (ISO 12233)

カメラレンズの場合,幅1ミリメートルの間に均等に引かれた線を何本区別できるかどうかで解像度が測られました.解像度の高いレンズであれば一本一本の線がくっきり見えるのに対し,解像度の低いレンズであれば全体的にぼやけてしまって,一本一本の線が見分けられないことになります.例えば1ミリメートルの間に30本の線が引かれたテストパターンを撮影して,一本一本の線が区別できれば解像度は「30本/mm」というふうになります.

特に飛行機や人工衛星から敵国のスパイ写真を撮影する時にはレンズの解像度が極めて重要な要素でしたから,光学メーカーはレンズの解像度を上げるために血眼になったものです.

やがてアナログビデオの時代になると,レンズよりも受像素子(カメラ)や伝送経路(TV局の放送設備)の方が解像度を下げる原因になりました.この時代,ビデオは写真に比べるとあまりにも解像度が低かったせいか,縞模様を撮影したときに黒線も1本,白線も1本と「全て」の線を数えるようになります.直感には反する数え方ですが,数学的にはこちらの方が合理的です.のちのデジタルの時代になると,線を何本「区別できるか」ではなく,線が何本「そこにあるか」の方が重要になってくるからです.

アナログビデオの時代に使われたブラウン管TVは,電子線(別名を陰極線,ベータ線)を真空のガラス管の中で電極から撃ち出して,ガラス面の内側にぶつけることで発光させています.このとき,電子線を少しずつ曲げて画面全体を「舐める」ように発光させることで映像を見せています.この電子線の曲げ方は割とデジタルで,1秒の間に横方向に何回曲げる,縦方向に何回曲げるという回数が決まっています.これらの回数をもって,ブラウン管の場合は「解像度」と呼んでいました.地上波アナログTVの場合,横方向がだいたい640回,縦方向がだいたい480回でした.「だいたい」というのは,ブラウン管TVの時代は画面の端っこを捨てていたからですね.

話は飛びますが,カステラの切れ端,美味いですよ.「希少部位」とはよく言ったものです.

そしてデジタル写真とデジタルビデオの時代,画面の解像度は画像の構成要素である「画素」の数で測られることになります.画素は英語で「ピクセル」と言いますが,これはピクチャー・セル(細胞)またはピクチャー・エレメント(要素)の略です.例えば日本で普及している「フルハイビジョン」の液晶TVの場合,横方向が1,920ピクセル,縦方向が1,080ピクセルあります.フルハイビジョンは横方向がおよそ2,000ピクセルとなるので「2K」とも言います.「K」は1,000を表す「キロ」のことですね.

僕が最初に触ったパソコンの解像度は横160ピクセル,縦100ピクセルでした.今の言葉で言えば「0.2K」でしょうか.それでも誇張表現ですが.ちなみにこんな画面です.

PC-8001の画面例(<a href="https://www.gamepres.org/2019/11/12/pcmini_pc80_program/">ゲーム保存協会</a>)
PC-8001の画面例(ゲーム保存協会

世界最初の民生用デジタルカメラと言われているアップルの QuickTake 100 の画面解像度は横640ピクセル,縦480ピクセルでした.縦横を掛け算すると約30万ピクセルになるので「0.3メガピクセル」とも呼ばれました.「メガ」は100万の意味です.現在では1億ピクセル(100メガピクセル)を超えるデジタルカメラが販売されています.

画像の世界では,フィルム写真からアナログビデオ,デジタル写真とデジタルビデオの時代に至る間,よく使われる解像度が一時的に落ちたことになります.フィルム写真の解像度は,一概には言えないのですがデジタル写真で言えばだいたい1,000万ピクセル(10メガピクセル)から2,000万ピクセル(20メガピクセル)程度と言われています.[参考文献]これが,プロカメラマンがなかなかフィルムを捨てられなかった理由なんでしょうね.

なおコンピュータ業界では,なんとなくですが,640x480ピクセル(0.3メガピクセル)を超えたあたりから「ハイレゾ」と呼ぶようになり,1メガピクセルあたりからは「ハイレゾ」が当たり前すぎて言わなくなったように思います.

さて,以上が画像の方のお話し.

音楽の方はまた話が異なります.

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