【第24号】スーパームーン皆既月食がやってくる〈特別配信〉

今夜7時!南東の空をご覧ください!
金谷一朗(いち)
2021.05.26
誰でも

いちです,おはようございます.

今週は水曜日にもニュースレターをお送りすることにしました.というのも,今夜!月食が!あるのです!それも,日本では約3年ぶりの「皆既月食」です.

www.astroarts.co.jp

NASAの計算によると,皆既食は今夜(2021年5月26日)20時11分から26分の間のわずか15分だけです.皆既食がこれだけ短いのは大変珍しいことなのです.

短いのに珍しいの?

そうなんです,皆既食が短いというのは,それだけ月と地球が接近しているということなんです.事実,今回の月食は2021年の中で月と地球が一番近づいている状態「スーパームーン」で起こります.つまり,今回は大変珍しいスーパームーン皆既月食になります.

日本の広い地域で晴れの見込みですから,ぜひご覧くださいね.次の皆既月食は日本では2022年11月8日までありません.

月食を見るには?

今夜の月食は18時45分に満月が地球の影に入ることで始まります.この時間,日本の西半分ではまだ月がのぼっていませんし,東半分でも地平線すれすれですから,月食の始まりは見逃すことになるかもしれません.

ともかく月は東から昇りますから,今夜19:00頃には東の空を見てみてください.肉眼で結構です.そして20時11分には月全体が地球の影に入り,皆既月食となります.皆既月食では完全に月が見えなくなるのではなく,赤銅色(しゃくどういろ)の月,つまり「ブラッドムーン」が見えるはずです.

国立天文台ウェブサイトより引用(国立天文台は皆既食の始まりと終わりをNASAより広めに計算しています)
国立天文台ウェブサイトより引用(国立天文台は皆既食の始まりと終わりをNASAより広めに計算しています)

また今回の月食は,皆既月食の15分間がずっと「薄明」の中,つまり空がほんのり明るい中で起こります.と言うことは,夕暮れの紫の中に赤い月が見られるのかもしれないのです.そして月の横には真っ赤な星,さそり座のアンタレスが輝きます.きっと神秘的な絵になることでしょう.

今夜のように太陽が沈み切る前に月食が始っていることを,英語で「セレネヘリオン(selenehelion)」と呼びます.「セレネ」は月の女神「セレーネー」から,「ヘリオン」は太陽の神「へーリオス」から来ています.女神セレーネーには後でまた登場してもらいましょう.

皆既食は20時26分に終わり,徐々に月は元の姿へと戻り,21時52分には,寸分違わぬ満月へと戻ります.普段の満月は「満月」と言っても多少は欠けているのですが,今夜の満月は「完璧な満月」です.

ぜひ,月食が終わるまでお楽しみください.

十三夜

今夜のような満月の夜を日本では「十五夜」と呼ぶことはご存知のとおりです.旧暦が月の満ち欠けと連動しているため,旧暦の毎月1日が新月,毎月15日がほぼ満月となることから,満月のことを「十五夜」と呼んだわけですね.十五夜に月を鑑賞するのは元々は中国の習慣だったそうで,それが日本にも入ってきたと言われています.

一方,さすがはパンをアンパンに魔改造してしまう日本人たち,平安時代に独自の「お月見」を生み出したようです.それが「十三夜」の月見.満月に2日足りない少し欠けた月は少し奥ゆかしく,また愛おしく感じられます.

本来の十五夜は旧暦8月15日(今年は9月21日に相当)で,十三夜は翌月の旧暦9月13日(今年は10月18日に相当)に鑑賞するものなのだそうです.「徒然草」にも

八月十五日,九月十三日は,婁宿(ろうしゅく)也,此宿清明なる故に,月をもてあそぶに良夜とす
徒然草

とあります.婁宿(ろうしゅく)とは中国の星座のひとつで,今で言う「9月から10月はてんびん座」みたいな感覚です.

現代は10倍速で時間が流れる「キャットイヤー」と言われて20年以上が経っています.お月見も年に1回と言わず,満月もせっかく1年に12回から13回あるのですから,毎月夜空を見上げてはいかがでしょうか.旧暦8月15日を「芋名月」,旧暦9月13日を「栗名月」と呼びますから,毎月「なんとか名月」にすると良いかもしれません.苺の本来の旬は5月ですから,5月の名月は「苺名月」でいかがでしょうか.

月と伝説

月食は,古代の人間にとっては大変神秘的な出来事だったでしょう.月食の原因を知っている現代人から見てもちょっとしたショウですから,まして突然起こる「天変地異」に古代の人々は驚愕したことでしょう.

古代エジプト人たちは,月食は天空の動物が月を食べてしまったのだと考えました.太陽の化身である王は各都市を巡って人々の気持ちを鎮めなければならなかったと言います.[参考文献1]

一方で,古代ギリシアの哲学者たちは,月食が地球の影によって起こるとし,影が丸いことから地球も丸いと主張をしました.これは結果として正しい推測でした.

ギリシア神話での「月の女神」は「セレーネー」一人でした.現在でも月面図を表す英語「セレノグラフ」や元素名「セレン」にその名前を残しています.セレンは月とは無関係な元素なのですが,元素の周期表に並べたときに「地球」を意味する金属元素「テルル」のすぐ上に収まったことから「月」を意味する名前がつけられました.アーサー・C・クラークの小説「渇きの海」に出てくる月遊覧船「セレーネ号」もまたギリシア神話由来の名前を持ちます.

ギリシア神話には後からもうふたり月の女神が登場します.「アルテミス」と,彼女の従姉妹である「ヘカテー」です.アルテミスもヘカテーも元々は土着の神様だったようですが,後からギリシアの神々に合流しました.理屈にうるさい古代ギリシア人たち,月が満ち欠けによって姿を変えるのは三人の女神が入れ替わるからだと理屈をつけて,この混乱を納得しています.

ギリシアに憧れて何でも輸入した古代ローマ人たちは,ギリシア神話の「セレーネー」を古代ローマの月の女神「ルーナ」と同一視しました.また「アルテミス」はローマの「ディアーナ」,「ヘカテー」はローマの「トリウィア」という女神になりました.ルーナは英語読みのルナ,ディアーナは英語読みのダイアナまたはダイアンとして,人の名前にもよく使われています.日本語だと「美月(みつき)」さんのようなイメージでしょうか.スペインにはペドロ・マルティネス・デ・ルナ教皇がいらっしゃいましたが,こちらはさしずめ「望月」さんでしょう.

「ルナ」の名称は月を学術的に呼ぶ場合によく用いられています.例えば月食は英語で「ルナ・エクリプス」と言います.ここらへんは,日本人が学術用語に漢字や外来語を好む感覚と似ていますね.

古事記とツクヨミ

日本では「古事記」に月の伝説が出てきます.黄泉の国から戻ったイザナギが禊を行ったときに,右目を洗った際に生まれたのがツクヨミ(月読命)で,左目を洗った際に生まれたのがアマテラス(天照大神)です.ツクヨミが女神なのか男神なのかは記されていませんが,一般にはアマテラスの「弟」とされています.アマテラスは太陽神であり巫女,ツクヨミは月神(つきがみ)です.

日本神話にツクヨミはあまり出てきませんが,京都の松尾大社の隣の「月読神社(つきよみじんじゃ)」はツクヨミを祀った神社です.京都の「月読神社」は長崎県の壱岐の島にある「月讀神社」から分祠を受けたものとされます.また伊勢には「月讀宮」があり,大変格式の高い神社とされています.

他に,例えば東京の阿佐ヶ谷神明宮では本殿にアマテラス,ツクヨミ,スサノオの「三貴子」を祀っています.皆様の地元の神社でもツクヨミを祀っていらっしゃるかもしれません.

いずれ,この新型コロナウイルス禍が落ち着きましたら,ツクヨミ・ツアーなんかいかがでしょうか.例えば1日目は志摩に投宿してゆっくりした後,翌朝「月讀宮」にお参りし,近鉄で京都へ移動して1泊します.翌朝は京都駅に荷物を預けて「月読神社」まで出かけ,お昼頃には京都駅に戻って新幹線で博多を目指しましょう.博多で1泊して,翌朝ジェットフォイルで壱岐へ渡ります.壱岐では車を借りるかタクシーで「月讀神社」へ.壱岐で1泊して,翌朝またジェットフォイルで博多に戻り解散.

以上,4泊5日のツクヨミ・ツアーのご提案でした.志摩と壱岐ではぜひ温泉も楽しんでくださいね.できれば,満月のあたりを狙って計画したいところです.

...と,僕はよく地図を見ながら妄想の旅をしています.

あとがき

と言うわけで,月食にあわせて緊急(?)配信させていただいた今朝の記事,お楽しみいただけましたでしょうか.

今日も最後までお読みいただいてありがとうございます.よろしければ「読んだよ」ボタンを押していってください.

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では,多分今週金曜日7:00に,再びお目にかかりましょう.(今から今週号の原稿を書きます.)

では!

参考文献

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ニュースレター「STEAM NEWS by Ichi」

発行者:いち(金谷一朗)

TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピュータ代表・長崎大学情報データ科学部教授

Photo by Constantin Popp on Unsplash