とんかつとE=mc²【第138号】

1️⃣とんかつの起源について調べた人文学の研究があります
2️⃣自然科学でもっとも有名な式「E=mc²」は人文学の方法で見つけられました
3️⃣人文学と自然科学を隔てるものは何でしょうか?
金谷一朗(いち) 2023.07.14
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いちです,おはようございます.

先週,韓国のかたからメッセージを頂きました.STEAM NEWSを翻訳で読んでくださっているとのこと,本当に嬉しいです.

さて,今週こんなことが気になりました.

Photo by Cody Chan on Unsplash

Photo by Cody Chan on Unsplash

「とんかつ(カツレツ)」「オムライス」「カキフライ」「エビフライ」「ハヤシライス」など日本を代表する「洋食」を次々と発明したと言われている洋食店があります.それが,銀座の「煉瓦亭」です.この説は広く信じられていたため,ある程度のご年齢以上のかたは一度は聞かれたことがあるのではないでしょうか.

実際,三代目煉瓦亭店主木田幸一は,彼の父である二代目がとんかつ(カツレツ)を発明した経緯を次のように説明しています.

日本人の間に肉料理が流行したのは日露戦争後のこと.当時私どもの店では,父,元次郎が豚肉のコートレット(カツレツ)に腕をふるっておりました.しかし肉料理が人気を呼ぶにつれ,豚肉をソテーしてオーブンで仕上げる本格的コートレットは手間がかかり,お客様がたて込む昼食時にはとても間に合いません.そこで肉を天ぷらのようにフライにしてみました.コートレットより淡白な味が受けたのでしょうか,これが大当たり.新しく付け合わせた生キャベツのせん切りもよく合うというわけで,以来フライ式ポークカツレツと生キャベツの組み合わせが日本中に広まったのでございます.

いい話に聞こえますね.

ただし,これが真実ならば,ですが.

近代食文化研究会「なぜアジはフライでとんかつはカツか?」は,先ほど引用した木田氏の説明が何ひとつ正しくないことを,綿密な調査によって裏付けています.

文献調査というのは,文献からわかることをひとつひとつ積み上げて,矛盾点をあぶり出して,膨大な情報の中からひとつの道筋を見つけていく作業なのだと,僕は同書を読んで改めて感じました.とても科学的に見えますよね.

そこでふと思い浮かんだのが,じゃあ「人文学」は「科学」なの? という疑問.この号ではそんな疑問について,僕なりに考えたことを書いていきたいと思います.

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《目次》

  • 長さの単位メートル

  • E=mc²

  • とんかつの謎

  • 今週の書籍

  • 今週のTEDトーク

  • Q&A

  • 一伍一什のはなし

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