数学と詩【第148号】
2️⃣数式でリメリックを書いた詩人がいました
3️⃣数学者と詩人は同類なのかもしれません
いちです,おはようございます.
シンポジウム運営のため,オクスフォード大学に短期滞在しています.ホストしてくださっている量子コンピューティングの教授が大変美しいイングランド英語を話されるので,ちょっとした会話が英語の詩のように感じられました.

というわけで,この号では「詩(ポエトリー)」について,書いてみたいと思います.
ところでイングランド英語はEnglish Englishなのでしょうか.
📬 STEAM NEWS は国内外のSTEAM分野(科学・技術・工学・アート・数学)に関するニュースを面白く解説するニュースレターです.
《目次》
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数学の詩
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数式で書くリメリック
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プログラミングでリメリック
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今週の書籍
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今週のTEDトーク
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Q&A
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一伍一什のはなし
数学の詩
詩は普遍的な芸術です.それはさまざまな言語で作られていますし,またさまざまな対象が詠まれています.
このSTEAMニュースでよく取り上げる「数学」もまた,詩の対象になっています.たとえば代数学について詠まれたリメリック(五行戯詩)があります.「リーダーズ・ダイジェスト」からご紹介しましょう.(訳は筆者.)
Is algebra fruitless endeavor?(代数なんて 意味なくね?)
It seems they've been trying forever,(君らは言うさ よく探せ)
To find x, y and z,(XYに Zなど)
And it’s quite clear to me:(だけど僕らは 知ってるぞ)
If they've not found them yet then they'll never.(そこに無ければ ないですね)
リメリック(limerick)は主に英語圏の詩で,行数や音韻が決まっています.リメリックは必ず5行で,1, 2, 5行目と,3, 4行目で韻を踏みます.また各行のリズムもだいたい決まっています.日本語で言えば「狂歌」みたいなものですね.「泰平の 眠りをさます 上喜撰 たった四盃で 夜も寝られず」も同じジャンルと言って良いでしょう.
日本語だと文章が偶然に五・七・五・七・七のリズムになってしまうこともあり,ウィキペディアの記事からそのような「詩的」フレーズを抜き出すボットも活動しています.「アルメニア,アゼルバイジャン,ウクライナ,中央アジア,およびシベリア」が有名どころでしょうか.
英語で文章が偶然リメリックになってしまうことは滅多にないとは思うのですが,それでも韻を踏んでしまうことはよくあります.こういう芸術と言葉の関係っておもしろいですね.響きが美しいことは,とりわけ文字が発明される前には重要な意味を持ったでしょうから.
数式で書くリメリック
詩にはいろんな形式がありますが,なんと「読むとリメリックになる」数式を考えたひともいます.その数式がこちらです.

読みはこうなります.(翻訳はWikipediaより引用.)
A dozen, a gross, and a score(1ダース,1グロス,そして1スコア)
Plus three times the square root of four(加えることの3掛けるルート4)
Divided by seven(割る7)
Plus five times eleven(プラス5掛ける11は)
Is nine squared and not a bit more.(9の二乗と,もうなにもない)
それにしても,数式で詩が書けるのはおもしろいですね.ひょっとしたら俳句も書けるかもしれません.即席で作ってみましょうか.
15+64=79(いちごたす ろくじゅうよんは しちじゅうく)
うわあああ,下手すぎた……もっといい式は書けないですかね? 皆様の投稿をお待ちしています.
プログラミングでリメリック
コンピュータープログラマーはこういう言葉遊びに興味を示す人種です.というわけでネット検索してみたところ,プログラマーが集まる掲示板「スタックエクスチェンジ(StackExchange)」にいくつかのプログラム・リメリックが投稿されていました.
その中からひとつご紹介しますね.

こちらは次のように読みます.(筆者訳.)
a equals open square bracket(変数aは 角カッコ)
quote hello world quote close square bracket(引用する ハローワールド 角コッカ)
print quote quote dot backslash(プリント 引用引用 ドットカネ)
join paren a hash hash(ジョインと カッコa イゲタ2個)
and finally close unmatched bracket(最後まさかの 閉じカッコ)
なおこのプログラムはちゃんとしたPython (v2)コードで,実行すると画面に「hello world」を出力します.
僕もいつか,詩的なプログラムを書いてみたいものです.
今週の書籍

弁護士,暗号専門家,作家,化学者,画家,数学者の六人からなる〈黒後家蜘蛛の会〉と給仕一名は,月一回〈ミラノ・レストラン〉で晩餐会を開いていた.会では毎回のようにミステリじみた話題が出て,会員各自が素人探偵ぶりを発揮する.だが常に真相を言い当てるのは,物静かな給仕のヘンリーだった! SFの巨匠アシモフが著した,安楽椅子探偵ものの歴史に燦然と輝く連作推理短編集が,読みやすい新装版として隔月で刊行開始!
推理小説として名高い「黒後家蜘蛛の会」ですが,作中でアシモフによるリメリックも紹介されています.
翻訳も見事なのですよね.リメリックではないのですが,同シリーズには
Whether weather
を「天気が転機」と訳した短編があったりと,翻訳の妙が詰まっています.
ぜひご一読を.
今週のTEDトーク

TED
パフォーマンス詩人(兼・数学専攻の学生)のハリー・ベーカーは,彼の好きな数―孤独で,愛に悩める“素数”について愛の詩を披露します.さらに,チャーミングな詩人の,生き生きと活力に満ちた詩2編もお楽しみください.
数学者で詩人と言えばルイス・キャロルが有名ですが,ハリー・ベーカーもそのひとりです.
人間が数学に向き合う態度と,詩に向き合う態度は似ているのかもしれません.どちらも言葉を使った美の探求という意味では同じなのかもしれませんね.
Q&A
匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.
今週はこちらの質問から.
いちばん最初に「年をとったな」と感じたのは,いつどんな時ですか?
ミシン目に沿って紙を切り離したつもりが,途中で斜めに破けてしまったときです.中学生でした.
このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.
一伍一什のはなし
先週末,長い間お会いしたかったKumiさんとついにロンドンでお会いしました.

KumiさんはNHK「えいごであそぼ」のお姉さんで,質問サイトQuoraでずっと尊敬してきた方なので,お会いできて本当に光栄でした.またTEDxDejima Studioのロケ撮影にも応じて頂きました.動画がTEDxチャンネルにアップされたらご報告しますね.
その後,僕は撮影機材をロンドンに置いて,オクスフォードへ向かいました.

こちらの写真は,オクスフォード大学セント・アンズ・カレッジの学生寮の様子です.僕はこちらに1週間滞在しています.
オクスフォード大学では主にシンポジウムの運営をしているのですが,お昼の時間に同大学の日本研究者でウクライナ出身のオリガ・ホメンコ博士と会うことができました.彼女から教わったことも,いずれSTEAM NEWSでお伝えできればと思います.
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では,また来週,お目にかかりましょう.
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ニュースレター「STEAM NEWS」
金谷一朗(いち)
TEDxDejima Studioファウンダー・パイナップルコンピューター代表・長崎大学情報データ科学部教授
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