三角関係と三体問題【第208号】
いちです,おはようございます.
ネット上の「掛け算の順序(強制)問題」論議は風物詩を通り越して通年行事になってきているようですね.掛け算の順序(強制)問題とは「みかんを3人に2個ずつ配りました.みかんは全部で何個だったでしょう?」という問題の回答として「2×3」は正解だが「3×2」は不正解とすべきという主張への賛否です.
「みかんを3人に2個ずつ配りました」という具象を「掛け算の式」という抽象へ持って行くのが算数であり数学です.具象から抽象へ持っていくということは,ディテールを捨てるということです.式にした時点で「みかん」や「人」というディテールは捨てられているので,掛け算の順序強制派も非強制派もその点は一致しているのでしょう.ただし,掛け算の順序強制派はそこで立ち止まり「(ひとつぶんの数)×(いくつ分)」という順序の強制を主張します.一方で非強制派は「(数)×(数)」まで抽象化したものが掛け算の式で,自然数の掛け算はいつも「a×b=b×a」なのだから,掛け算の順序強制はおかしいと主張します.
僕から見ると,抽象度の違う演算に同じ記号を割り当てているのが「問題」いや「悲劇」の原因です.抽象度の高い本来の数学は掛け算に「×」記号を使います.そこで,抽象度の低い方は「×」以外の記号を使ってはどうでしょうか.「(ひとつぶんの数)×(いくつ分)」という順序は日本文化に強く依存していますから,日本の記号「※」を「順序が矯正された掛け算」に使えば良いでしょう.「みかんを3人に2個ずつ配りました」は「2※3」であって「3※2」ではないと堂々と主張するのです.これなら混乱しなくて済む……というのは言いすぎかもしれませんが,ひとつの提案としてどうでしょうか.
教育現場での混乱と言えば,昔イギリスの小説に出てきたこんな表現の意味をイギリス出身の英語の先生に聞いてみたことがあります.
"her love of him"
直訳すると「彼の彼女の愛」または「彼女の彼の愛」となります.これは「彼女による彼への愛(her love for him)」でしょうか.それとも「彼による彼女への愛(his love for her)」でしょうか.回答はニュースレターの最後に書いておきます.
今週は,そんなことでラブ(love)の話をふたつしてみたいと思います.ひとつは芸術と,もうひとつは天文学と関係の深いラブです.
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《目次》
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三角関係
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三体問題
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△(ラプラシアン)
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Q&A
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一伍一什のはなし
(Cover Photo by Rachel Walker on Unsplash)