直感を裏切る数学【第271号】
いちです,おはようございます.
書籍「直感を裏切る数学『思い込み』にだまされない数学的思考法」に興味深い,しかも切実な話が書かれています.
とある人物のこんな日記から話は始まります.
……さっそく健康診断を受診した.届いた結果を見てみると,胃X線検査が「要精密検査」と書かれている.インターネットで調べてみると,実際にがんの人が要精密検査とされる率は約90%だという.これはつまり,「胃がんの可能性が非常に高い」という意味ではないだろうか.心配である.
この人物が胃がんである確率は本当に90パーセントなのでしょうか.
統計学的に考えると,この人物が胃がんである可能性は高くありません.それどころか,驚くほど低いのです.
今週はこの点をわかりやすく書いてみますね.

もうひとつの話題として,宝くじの「当たりやすさ」についても書いてみます.
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(Cover Photo by Vitaly Gariev on Unsplash)
《目次》
要精密検査と言われたら……?
当選の出た宝くじ売り場からはまた当選が出る?
今週の書籍
今週のTEDEdトーク
Q&A
一伍一什のはなし
要精密検査と言われたら……?
割合は僕たちの日常生活でよく見かけるものです.お惣菜に貼られた「30パーセント引き」シールは僕たちの強い味方です.200円の30パーセント引きなら140円とか,暗算できてしまうのではないでしょうか.
ところが,割合に慣れ親しみすぎた結果,冒頭の健康診断の結果を誤読することもあるのです.
胃X線検査を受けた結果「実際にがんの人が要精密検査とされる率は約90パーセント」であることは真実だとしましょう.また日記の人物は「要精密検査」と言われています.だったら,この人が胃がんである確率は90パーセントだと思うじゃないですか……
書籍「直感を裏切る数学『思い込み』にだまされない数学的思考法」では次のようにして,この誤解を解いています.
「実際にがんの人が要精密検査とされる率は約90パーセント」とは「(A)実際にがんの人が」「(B)要精密検査とされる率は約90パーセント」と2個のパーツにわかれます.(A)の部分は条件を,(B)の部分は確率を表しているので,(A)(B)合わせて「条件付き確率」と呼びます.
ところで,胃X線検査は胃がんじゃない人も当然受けているわけです.ここでは,日本人の胃がん発生率に基づいて,胃X線検査を受ける人の1,000人に1人が実際に胃がんにかかっている(確率0.001)と仮定しましょう.(仮定1)
実際にがんの人が,胃X線検査の結果,要精密検査となる率,つまり陽性となる率を90パーセント(確率0.9)とします.(仮定2)
そして,もうひとつの仮定を考えます.
本当はがんにかかっていないのに,要精密検査となる確率は10パーセント(確率0.1)とします.(仮定3)
そうすると次のような表(表1)ができます.

表1
この表から,要精密検査つまり陽性となる確率を求めてみます.
陽性である確率は,がんである場合の0.0009とがんでない場合の0.0999を足せばよいので
0.0009+0.0999=0.1008
となります.つまり10.08パーセントが,がんの有無にかかわらず要精密検査になる計算です.このうち本当にがんにかかっている確率は0.0009なので,割り算をするとこうなります.
0.0009/0.1008=0.008929...
結論.胃X線検査で要精密検査と言われた件の人物が実際に胃がんである確率は,約0.9パーセントでした.
あれ,90パーセントではなかったのでしょうか.確率が想像の1/100になってしまいました.
90パーセントという最初の数字は「(A)実際にがんの人が」「(B)要精密検査とされる率は約90パーセント」という条件(A)が含まれていたものでした.これを「条件付き確率」と呼ぶのです.
実際の検査では,がんでないのに陽性がでる「偽陽性(false positive)」もあり得るので「あなたは要精密検査ですね」と言われても,ただちに「ああオレは間違いなくがんなのだ」と思う必要はありません.上記の(仮定1)(仮定2)(仮定3)に挙げた数字は,日本で言えば医療統計上,妥当な数字です.
とは言え,安心のためにも要精密検査と言われたら精密検査を受けておくのが良いでしょう.