★ 研究費は「ボールペン」で【第56号】〈特別配信〉
いちです,おはようございます.
「STEAMボート乗組員」(有料購読者様)限定配信をお届けいたします.ご支援本当にありがとうございます.
最初の1年を支えてくださった御礼に,年末特別配信をお届けいたします.今回はその第1弾です.是非お楽しみください.
ボーナスが蜜柑で支払われたというツイートを見かけました.僕も「蜜柑星人」(蜜柑大好き人間)ですが,これはさすがにつらい.残念ながらツイートは消されてしまっていますが,思い出すことがあるので書かせて頂きます.
大学の教員には,運営費交付金という資金が供給されます.これは給与ではなく,教育や研究に使いなさいというお金で,大学が管理するものです.教員は大学に「これこれを買いたい」「どこどこに出張したい」と申請して許可をもらい,大学に支払ってもらいます.だから給与と混ざることはありません.この運営費交付金が無ければ,教育も研究もできないのです.例えばプリンタに入れる紙を買うのも,この運営費交付金を使って申請しなければなりません.
運営費交付金が年々減らされているのは報道されているとおりで,運営費交付金だけではもはやまともな教育研究は不可能です.
そして,いつも地雷を全力で踏み抜くことに定評ある僕は,はじめて勤めた大学で,空前絶後とも言える運営費交付金カットを受けました.なんと,前年比90パーセントカットです.
その時の混乱ぶりを描いてみようと思います.
僕は年度始まりの4月ではなく6月に着任しました.新設の学部で,建物も設備も新しい……はずだったのですが,確かに建物は新しかったところ,必要な設備が間に合いませんでした.
なにせ予算が1/10になったのです.
机がありません.
大学の教員になったのに,机一つないのです.
そこで机を会議室から借りました.
椅子がありません.そもそも会議室にも椅子が足りません.
仕方ないので,当面は書籍を詰め込んだ段ボール箱に座ることにしました.(その後椅子は融通してもらえました.)
本棚がありません.既存学部からいらなくなった食器棚をもらいました.
プリンターがありません.上司がスーパーハッカーだったので,英語しか印刷できない中古のプリンターを魔改造して日本語も印刷できるようにしてもらいました.
プリンタに入れる紙がありません.母校に車で行き,裏紙を大量に分けてもらいました.まさか大学教員になって最初の仕事が裏紙回収になるとは思っていませんでした.
いや,最初の仕事は他にありました.当初予算を当てにして前任者が発注してしまった機材や消耗品があったため,業者に連絡を入れることです.もし納品前ならばキャンセルを,納品後なら返品を,そして使ってしまったものならば「業者に泣いてもらえ」と,大学の上層部に指示されました.
もちろん,教育研究に必要なものは買えません.事務室へ行くと「ボールペンだけは在庫があります.好きなだけ持っていって下さい」と言われました.いわば運営費交付金の現物支給です.ボールペンだけあっても,書くのは他大学から分けてもらった裏紙なのですよ.
学部長が文部省(現文科省)へ直談判へ行き,予算はかなりの割合で復活してもらったそうです.その後,文部省が国立大学を潰すモデルケースにされたのではないかという噂が流れました.
文科省は財務省から,いつも予算削減を押し付けられています.国立大学の予算を10%程度削除するのが当初の目標だったようです.国立大学は90校前後あるので,10校程度潰せば10%削減となるのでしょう.これがうまく行かなかったためか,その後は阪大と九大を潰せと言ったり,文系学部を廃止しろと言ったりしています.阪大と九大がやり玉に挙がったのは,なんと「(当時)ノーベル賞を取っていないから」だったとか.なぜそこで外国の権威に頼るのか,意味が分かりません.
そして,結局は運営費交付金の一律大幅削除という方針に落ち着いたようでした.こうすれば,大学の方も音を上げて,学部の削減とか,大学の統廃合に動くのではないかという意図が見え隠れします.実際,一部の大学は音を上げています.
本稿の最後に,大学の縮小に関する私見を述べておきたいと思います.