絶対温度への道〈後編〉【第47号】
【140字まとめ】「0度の氷と0度の水はどちらが冷たいの?」という疑問から「熱」と「温度」の区別が生まれました.熱は「熱素」という物質,温度は熱素の量と当初は考えられていたのですが,それを否定する証拠が次々と見つかります.いったい熱とは何なのでしょうか.そして絶対温度とは?
いちです,おはようございます.
前回の「絶対温度への道〈前編〉」に引き続き,今回は後編をお届けいたします.いやあ,大変なテーマを選んでしまいました.STEAMボート乗組員(有料購読者様)向けの「別冊」ではお話したのですが,白状すると僕は「熱力学」が大の苦手なのです.このニュースレターは有り難いことにその道の専門家も読んでいただいていますから,間違いがありましたら是非ご指摘をお願いいたしたく存じます.
そんな素人が無謀な解説を試みる理由ですが,これはもう,ファンキー末吉さんのせいです.そう,日本の(色物)ロックバンド「爆風スランプ」のドラマーです.彼はむかーし,確か1980年代に,ミュージシャン向けの雑誌で「コード(chord)」の解説をされていたんです.コードというのは,簡単に言うと「和音」のことなのですが,その使い方には「文法」とよく似た法則がいくつもあるのです.ファンキー末吉さんはドラマーなので,本来は和音と関係ないはず.なのですが,和音の専門家では無いからこその思い切った切り口で,大変読みやすかったのです.僕もいつか彼のように書けたら,と思ったのが「運の尽き」でした.
当時の記憶を頼りに「Newファンキー末吉(当時の芸名),連載,雑誌」などで検索をかけてみたのですが,見つかるのは「天安門にロックが響く」と中国語会話の入門ばかりで…ひょっとしたら僕の記憶違いかもしれません.どなたかご存じの方がいらっしゃいましたらこのメールへの返信でも,ツイッターで@kanaya宛でもこそっと教えていただけると助かります.
0度の氷と0度の水はどちらが冷たい?
さて,本題です.
セルシウス温度,つまりは我々が知っている「普通の」温度で0度の氷と,0度の水と,どちらが冷たいでしょうか.
温度はどちらも同じなのですが,氷のほうがより多く「熱」を奪います.このようにして,温度(tempareture)と熱(heat)は区別して考えないといけないことがわかります.氷が奪った熱は,氷の中に潜んでいくように見えるので,1750年にスコットランドの化学者ジョゼフ・ブラックによって「潜熱」と名付けられました.
この当時,熱とは何かという議論があったのですが,ブラックは実証されたもの以外は論じないという態度を貫き,熱とは何かについては語りませんでした.ただ,彼の潜熱の発見は次に述べる「熱素説」を強く後押ししました.
熱素説
物体の温度が変化するのは「熱」というものが出入りするからだという考え方は,古くからありました.ブラックの「潜熱」の発見は,その「熱」が「潜る」から温度が変わらないということを暗示しました.
古代ギリシアは「火」「空気」「水」「土」を四大元素としていましたが,これは古代ギリシア人たちが「火」を物質と捉えていたことを意味します.「火」は熱と同一視されていましたから,熱が物質であるという考え方は受け入れられやすかった土壌があるようです.実際,ブラックの活躍した18世紀には,熱は目に見えず,重さもない物体「熱素」だと考えられるようになっていました.
なお16-17世紀のひとガリレオ・ガリレイは熱を「火の粒子の運動」と考えていたため,熱素という物体があるという考え方とは一線を画していましたが,この考えは19世紀まで受け入れられませんでした.現在では熱素説は否定されており,ガリレオが考えた「運動」のほうが実態に近いことが分かっています.
ともかく,この時代から熱と温度は違う物理現象だということが徐々に理解されていったのです.
となると,熱素と温度の関係を調べなければなりません.