フリッツ・ハーバーの想い【第251号】

飢餓を救い,戦争を深めた化学者の苦悩.
いち 2025.09.19
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いちです,おはようございます.

フリッツ・ハーバー

フリッツ・ハーバー

1911年,首都ベルリンに引っ越したドイツ人化学者フリッツ・ハーバーは,この地で出会ったもう一人の天才ドイツ人アルベルト・アインシュタインと親友になりました.アルベルトはフリッツの息子の家庭教師を勤め,フリッツはアルベルトの離婚に助力しました.二人はすぐにお互い支え合う関係になったようです.

しかし1914年に祖国ドイツがベルギーに侵攻すると,二人は対立しはじめます.フリッツ・ハーバーが祖国を守ることを宣言し従軍を志願した一方,アルベルト・アインシュタインはドイツの政権を嫌いやがてドイツを去ります.

フリッツ・ハーバーとアルベルト・アインシュタインは,それぞれ人類史を永遠に変えた科学者たちです.フリッツ・ハーバーは空気中の窒素から肥料を作ることを可能にし,当時のドイツ人のみならず全人類を飢餓から救いました.一方でフリッツ・ハーバーの発明した方法は無制限に弾薬を生産することも可能にし,人類をそれまで体験したことない大規模な戦争へ突き落としました.これはアルベルトの発見が現在の多くの工学の基盤になっているものの,かつて無かった大量破壊兵器へと繋がったことと似ています.

ユダヤ系であったフリッツ・ハーバーはより「ドイツ人らしく」あろうとドイツ政府に協力し,戦時中の食糧難を解消するために農作物向けの殺虫剤の開発を行い,また毒ガス兵器の開発にも手を出します.しかし,そのせいで妻をなくし,またついにはユダヤ系であるという理由だけでヒトラーに疎まれ,ドイツを去ります.彼はヨーロッパを転々としますが,ついにドイツ人であることを諦め,ユダヤ人コミュニティへ参加します.このとき,アルベルトはフリッツを歓迎する手紙を書き送っています.

今号ではそんなフリッツ・ハーバーについてお話したいと思います.

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(Cover Photo by Jan Kopřiva on Unsplash)

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続きは、5926文字あります。
  • 地面には窒素が足りない
  • フリッツ・ハーバー
  • 化学者の戦争
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