【第29号】デジタル資産「NFT」てなんだ?〈特別配信〉

最近話題の「NFT」についてミニ解説!
金谷一朗(いち) 2021.06.19
誰でも

【140字まとめ】アート作品の取引に使われる「NFT」についてミニ解説をお送りします.NFTはビットコインと同じくブロックチェーン技術に基づいているため,デジタル資産と呼ばれることが多いですが,実際には「鑑定書・所有証明書」と呼んだほうが正確です.NFTは取引記録なのでアート作品ではありません.

いちです,おはようございます.本ニュースレターは毎週金曜日朝7:00にお届けしているのですが,今朝は〈特別配信〉をお届けすることにしました.

本ニュースレター【第28号】【第29号】では「ビットコイン」「ブロックチェーン」「サトシ・ナカモト」について話題を提供してきました.

今年に入り,ブロックチェーンに基づいた新しいデジタル資産「NFT」が注目を集めています.NFTとは Non-Fungible Token の略で,日本語で言えば「非代替性トークン」となります.NFTは「NBA Top Shot」と言う「トレーディングカード」(トレカ)に使われたことで一躍有名になりました.このカードは物理的な存在ではなく,ウェブ上でデジタルカードとしてコレクションするもので,カードにはNBA(全米プロバスケットボール)の名シーンがそれぞれ記録されています.デジタルなカードなのですが,数億円もの値がついたものがあることで,デジタル資産の代名詞になりつつあります.

物理的なトレーディングカードの例 (Photo by&nbsp;<a href="https://unsplash.com/@introspectivedsgn?utm_source=unsplash&amp;utm_medium=referral&amp;utm_content=creditCopyText">Erik Mclean</a>&nbsp;on&nbsp;<a href="https://unsplash.com/s/photos/trading-card?utm_source=unsplash&amp;utm_medium=referral&amp;utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>)
物理的なトレーディングカードの例 (Photo by Erik Mclean on Unsplash)

お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏が自身の音声番組でNFTを紹介されていたので,気になっていた方もおられるでしょう.僕は大阪を離れてから急にお笑いファンになったので,残念ながら彼のお笑い芸人としてのキャリアを追いかけてはいなかったのですが,彼が時々話される「鼓が滝」「鶯(うぐいす)の森」「万願寺」などの地名は僕の地元でもあり,懐かしすぎてよく彼の音声を聞いています.

さて,そんなNFTですが,非常に簡単に言うと,あるデジタルデータが「複製ではないことを証明する書類」です.NFTは技術的にはブロックチェーンつまり分散台帳に書き込まれた記録のひとつに過ぎません.【第28号】でお話させていただいたとおり,ブロックチェーン上の記録は改ざんが不可能とされていますから,そこに「XさんがYさんへZというデジタルデータの所有権を移転します」と書いて承認を受ければ,Zというデジタルデータの所有権はYさんのものという認識が共有されることになります.

ブロックチェーンのひとつ「ビットコインネットワーク」では,Zがビットコインで,分散台帳を維持するマイナー(採掘者)には報酬のビットコインが支払われていました.一般のNFTでは,Zが任意のデジタルデータとなるわけです.ブロックチェーンとしては,ビットコインネットワークと並ぶブロックチェーンである「イーサリアムネットワーク」が使われることが多いようです.イーサリアムネットワークもマイナーに報酬を提供する点はビットコインネットワークと同じですが,台帳にプログラムを登録しかつ実行させることが出来るので,高い柔軟性を持ちます.(プログラムとそうでないものの違いは【第9号】でお話しましたので,よろしければ御覧ください.)

どのようなデジタルデータがNFT付きで取引されているかと言いますと,先ほど取り上げたNBAのトレーディングカードの他に,例えばツイッター創業者のジャック・ドーシーによる「世界初のツイート」が数億円で購入されています.実はこの「世界初のツイート」は,誰でも見ることが出来ます.

ほら.

jack
@jack
just setting up my twttr
2006/03/22 05:50
121848Retweet 168018Likes
just setting up my twttr
@Jack

「ツイッター(twttr)設置したよ」です.

アルベルトの手紙には物理的な実体があるため,完全な複製を作ることは出来ません.ジャックのツイートはデジタルデータなので,自由に複製が出来ます.しかし,ツイートを「所有することの証明」ならば,ブロックチェーンを使って複製不可のデジタルデータにすることが出来ます.この複製できないデジタルデータがNFTです.

つまり,NFTは「鑑定書兼所有証明書」といったところですね.

別の言い方をすると,NFTは陶芸家によるお茶碗を収めた桐箱に相当するかもしれません.良いお茶碗だと,所有者が変わるたびに外箱を追加していくそうです.一番内側の箱には作者による「箱書き」がありますが,外箱には所有者の箱書きが書かれます.外箱は内箱にぴったり一致するように特注で作られますから,一種のブロックチェーンとして機能しているとも言えます.

お茶碗そのものはデジタルデータなので無限に複製できるけれども,外箱は複製できず,破壊できず,偽造できない.出来るのは,お金を出して外箱ごと買い取り,自分の箱書きのある大きな箱に収めるだけ,という事になります.

注意しなければならないのは,NFTが所有者に「独占権」をもたらすものではないということです.元となったデジタルデータは,技術的にはいくらでも複製可能です.実際,世界初のツイートの所有者は僕ではありませんが,こうして皆様にお見せしています.

また,ジャックがツイートをいつか消してしまう可能性もあります.こうなると「俺は何を所有していたのだ?」という哲学的疑問と日々戦うことになるでしょう.

さらには,NFTは新しい技術なので,法整備が追いついていない問題もあります.資産の取引ではあるのですが,ルールが出揃っていないのです.例えばジャック以外が彼のツイートを売りに出した場合はどう扱ったら良いのか,法律的な定めも,コミュニティの中のルールも,まだ固まっていないようです.他人のツイートを盗用する「パクツイ」は著作権侵害にあたりますが,他人の著作物を一切盗むことなく「所有権ぽい何か」を売ることの是非については,今後考えていかねばなりません.「月の土地」が売りに出されることもあるので,こういう商売もありなのかもしれません.

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると,NFT調査会社「ノンファンジブル・ドット・コム」のCEOダン・ケリー氏は「NFTの価値の多くはオリジナル作品を所有している誇りとそれを自慢できる点にある」と話しています.「鍵は所有権そのものにある.重要なのは,それを所有することで得られるステータスだ.オリジナルを所有するのと,レプリカを所有するのとでは全く違う」と.

以上,ブロックチェーンに関するこぼれ話でした.

また新しいトレンドがあれば取り上げていきたいと思います.

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では,また改めて来週,お目にかかりましょう.良い週末をお過ごしください.

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ニュースレター「STEAM NEWS by Ichi」

発行者:いち(金谷一朗)

TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピュータ代表・長崎大学情報データ科学部教授

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