2021年ノーベル物理学賞〜複雑さの中の秩序〈前編〉【第44号】
【140字まとめ】2021年ノーベル物理学賞は真鍋淑郎(米),クラウス・ハッセルマン(独),ジョルジョ・パリージ(伊)の3人に贈られました.真鍋はコンピュータを使った地球温暖化の予測を50年前に行い,その後も研究をリードしました.地球物理学が受賞するのも,計算科学が受賞するのも初めてのことです.
いちです,おはようございます.
今週は各ノーベル賞の発表がありましたね.僕はmRNAワクチン開発を主導したカリコー・カタリンが生理学・医学賞か化学賞を受賞すると思っていましたが,予想は外れました.きっと近いうちに受賞されると,今でも思っています.
ノーベル賞は物理学賞,化学賞をスウェーデン王立科学アカデミーが,生理学・医学賞をスウェーデンのカロリンスカ研究所が,文学賞をスウェーデン・アカデミーが,平和賞をノルウェー・ノーベル委員会が選考します.経済学賞はスウェーデン国立銀行が選考しますが,ノーベル賞設立者アルフレッド・ノーベルの遺言にないため,ノーベル財団によると厳密にはノーベル賞ではありません.
ノーベル物理学賞は今週火曜日(2021年10月5日)の日本時間18:45からの発表で,僕は19:00から自分自身のYouTubeライブの配信があったにもかかわらず,直前までスウェーデン王立アカデミーからのネット中継を見ていました.事務局長が受賞者の名前と受賞理由を読み上げるのですが,最初にスウェーデン語で,次に英語で,その次にドイツ語,イタリア語,フランス語,ロシア語(のように聞こえた)で読み上げられていました.
録画がこちらで見られるようですね.
ノーベル物理学賞の受賞者は真鍋淑郎(アメリカ),クラウス・ハッセルマン(ドイツ),ジョルジョ・パリージ(イタリア)の3人でした.受賞理由をスウェーデン王立アカデミーは次のように説明しています.
The Nobel Prize in Physics 2021 was awarded "for groundbreaking contributions to our understanding of complex systems" with one half jointly to Syukuro Manabe and Klaus Hasselmann "for the physical modelling of Earth's climate, quantifying variability and reliably predicting global warming" and the other half to Giorgio Parisi "for the discovery of the interplay of disorder and fluctuations in physical systems from atomic to planetary scales."
(翻訳)2021年のノーベル物理学賞は「複雑系の理解への画期的な貢献」に対して授与されます.半分は真鍋淑郎氏とクラウス・ハッセルマン氏が「地球の気候を物理的にモデル化し,変動を定量化して地球温暖化を確実に予測」したこと,もう半分はジョルジョ・パリージ氏が「原子から惑星スケールまでの物理システムにおける無秩序と揺らぎの相互作用を発見したこと」に対して贈られます.
様々な意味で2021年のノーベル物理学賞は歴史的なものになっています.とりわけ,従来ノーベル物理学賞を受賞してきた「宇宙」「素粒子」「物性」の研究ではなく「地球」を対象にした学問が受賞したことです.地球を対象にした学問は「地球科学(地学)」と言って,ノーベル賞に選ばれないことで有名な分野だったのですが,ついに選ばれたわけですね.
僕はもうひとつ,2021年のノーベル物理学賞が歴史的だった理由があると思います.自然科学の研究手法には「理論科学」「実験科学」「計算科学」「データ科学」の四通りがあるとされています.これは大雑把な分類で,当然オーバーラップする部分もありますし,実験科学以外は自然科学ではないと主張する人もいますが,一旦忘れてください.