先に仮説か,先に発見か?【第301号】
いちです,おはようございます.

「標準模型」による素粒子の一覧
この宇宙は,何種類の「いちばん小さい部品」でできているのでしょうか.
科学の答えは,いつも同じ順では届きません.あるときは仮説が先に立って,あとから実験が追いつきます.あるときは予想外の発見が先に来て,あとから理論が慌てて模型を書き直します.部品の名簿は「仮説→発見」と「発見→仮説」のふたつの流れが交互に刻んできた歴史そのものです.
古代ギリシアのデモクリトスは,万物がそれ以上割れない粒つまりアトム(atomos,分割できないもの)からできていると考えました.仮説だけが2,000年以上先を走った例です.ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンは,文明が滅びて一文だけ残すなら「すべてのものは原子からできている」を選ぶと言いました.講義録「ファインマン物理学」の冒頭近くにある,いわば物理学の遺言です.
ところが部品を数え始めると,すぐ困ります.化学者は陽子の個数を「1,2,3」とは呼ばず,水素(H),ヘリウム(He),リチウム(Li)……と記号で数えます.ファインマンはこれを「化学者のややこしい数え方」と茶化しました.粒子物理も似た運命をたどり,名前はギリシア文字の倉庫から借りられ「粒子の動物園」と呼ばれるほど増えました.エンリコ・フェルミは「こんな名前を全部覚えられるなら,植物学者になっていた」と嘆いた,とも伝えられます.
この宇宙は17種類の「いちばん小さい部品」すなわち素粒子でできている,というのが現在もっとも有力な説です.ただし17種類というのは数え方次第ですし,この17人の名簿の他にも誰かが残っている可能性もあります.
というのも,科学はいつも「仮説→発見」と「発見→仮説」のふたつの流れがあるからで,17種類の素粒子も仮説の段階だからです.
仮説と発見の交互打ちを,一緒にたどってみましょう.
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《目次》
仮説が粒を呼ぶ
発見が模型を壊す
予言された中間子と,先に来たミュオン
動物園からクォークへ
名簿にないもの
今週の書籍
今週のTEDトーク
Q&A
一伍一什のはなし
(Cover Photo by Terry Vlisidis on Unsplash)
仮説が粒を呼ぶ
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