先に仮説か,先に発見か?【第301号】

科学研究はいつも仮説が先とは限りません.あるときは仮説が発見を呼び,あるときは予想外の発見が仮説を書き換える.分子から素粒子までの歴史を,ふたつの流れの往復として読み解きます.
いち 2026.09.18
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いちです,おはようございます.

「標準模型」による素粒子の一覧

「標準模型」による素粒子の一覧

この宇宙は,何種類の「いちばん小さい部品」でできているのでしょうか.

科学の答えは,いつも同じ順では届きません.あるときは仮説が先に立って,あとから実験が追いつきます.あるときは予想外の発見が先に来て,あとから理論が慌てて模型を書き直します.部品の名簿は「仮説→発見」と「発見→仮説」のふたつの流れが交互に刻んできた歴史そのものです.

古代ギリシアのデモクリトスは,万物がそれ以上割れない粒つまりアトム(atomos,分割できないもの)からできていると考えました.仮説だけが2,000年以上先を走った例です.ノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンは,文明が滅びて一文だけ残すなら「すべてのものは原子からできている」を選ぶと言いました.講義録「ファインマン物理学」の冒頭近くにある,いわば物理学の遺言です.

ところが部品を数え始めると,すぐ困ります.化学者は陽子の個数を「1,2,3」とは呼ばず,水素(H),ヘリウム(He),リチウム(Li)……と記号で数えます.ファインマンはこれを「化学者のややこしい数え方」と茶化しました.粒子物理も似た運命をたどり,名前はギリシア文字の倉庫から借りられ「粒子の動物園」と呼ばれるほど増えました.エンリコ・フェルミは「こんな名前を全部覚えられるなら,植物学者になっていた」と嘆いた,とも伝えられます.

この宇宙は17種類の「いちばん小さい部品」すなわち素粒子でできている,というのが現在もっとも有力な説です.ただし17種類というのは数え方次第ですし,この17人の名簿の他にも誰かが残っている可能性もあります.

というのも,科学はいつも「仮説→発見」と「発見→仮説」のふたつの流れがあるからで,17種類の素粒子も仮説の段階だからです.

仮説と発見の交互打ちを,一緒にたどってみましょう.

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《目次》

  • 仮説が粒を呼ぶ

  • 発見が模型を壊す

  • 予言された中間子と,先に来たミュオン

  • 動物園からクォークへ

  • 名簿にないもの

  • 今週の書籍

  • 今週のTEDトーク

  • Q&A

  • 一伍一什のはなし

(Cover Photo by Terry Vlisidis on Unsplash)

仮説が粒を呼ぶ

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  • 発見が模型を壊す
  • 予言された中間子と,先に来たミュオン
  • 動物園からクォークへ
  • 名簿にないもの
  • 今週の書籍
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