天文学者が書いた宇宙人への手紙【第55号】

惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から持ち帰ったサンプルは,宇宙における生命誕生の鍵がつまっていました.ということは,この広い宇宙のどこかに,まだ見つかっていない知的生命体がいるかもしれないと言うことです.そんな宇宙へ,天文学者たちは手紙を送りました.
金谷一朗(いち) 2021.12.24
誰でも

【140字まとめ】「はやぶさ2」が持ち帰った資料から,生命誕生の秘密が明かされるかもしれません.この宇宙で我々は一人きりでは無いはずなのです.今週は天文学者が送った,どこかにいる「宇宙人」への手紙を解説します.最後にM-1グランプリをVRで見て気づいたエンタメとアートの境目についても語ります.

いちです,おはようございます.

おかげさまで『STEAM NEWS』は1周年を迎えることが出来ました.ご愛読いただき,本当に,ほんとうに,ありがとうございます!!

さて,今週も大きな科学ニュースがありました.惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から持ち帰ったサンプルの分析結果が,ついに発表されたのです.「はやぶさ2」を運用するJAXAからプレスリリースが2本出されています.

「はやぶさ2」による小惑星探査から,太陽系はその初期から水や炭素といった生命の材料を豊富に持っていたことがわかりました.

今週は,そんな惑星探査にまつわる驚きのストーリーをお届けします.

《目次》

  • 未知との遭遇

  • パイオニア10号が宇宙へ運んだ手紙

  • 東京オリンピック(1964)の遺産「絵ことば」

  • カール・セーガン博士が夢見た宇宙との交信

  • はやぶさ2が持ち帰った「生命のもと」

  • 【お知らせ】STEAMボート乗組員(有料購読者様)へ「赤裸々な」特別配信をお送りします

  • おすすめ動画: M-1グランプリ(2019)

  • おすすめ書籍:数学ガール

  • 一伍一什のはなし

未知との遭遇

スティーブン・スピルバーグ:未知との遭遇 (1978)

スティーブン・スピルバーグ:未知との遭遇 (1978)

スティーブン・スピルバーグの1978年の映画「未知との遭遇」では,地球人類と宇宙人との出会いが印象的に描かれていました.宇宙人が友好的に描かれた,大変初期の映画だったと思います.

侵略的宇宙人ものの最初と考えられる作品がH.G.ウェルズの「宇宙戦争」(1898)とされており,これ以前に宇宙人を友好的に描いた作品は(僕の知る範囲では)見当たらないことから,宇宙人という架空の存在に対しても徐々に敵対から受容へと人々の意識が変わっていったのかもしれません.

また1970年代には,宇宙人に対して友好的であろうとした機運があったのかもしれません.事実,人類最初の「宇宙人への手紙」が1972年に宇宙へ飛び立っています.

パイオニア10号が宇宙へ運んだ手紙

1972年3月2日,宇宙探査機「パイオニア10号」がアメリカのフロリダ州ケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました.パイオニア10号は1973年に木星に接近した後,太陽系を脱出する軌道に乗り,現在はおうし座の「アルデバラン」へ向けて170万年の旅をしています.打ち上げから30年以上を経た2003年1月22日に,パイオニア10号は地球と最後の交信をしています.

パイオニア10号の想像図 (Don Davis)

パイオニア10号の想像図 (Don Davis)

このパイオニア10号には,宇宙探査とは別の目的も持たされていました.

それが,宇宙人へ手紙を届けることだったのです.と言っても,宛先があるわけではありません.ボトルに詰めた手紙を浜辺から流すように,誰かが拾うことを期待して宇宙へ送られたのです.

ここで問題があります.ボトルに手紙を詰める時には,何語で書きますか?日本語?それとも国際語である英語?

あれ?宇宙人は何語をしゃべるんだっけ?

この手紙を企画した天文学者のカール・セーガン博士とフランク・ドレイク博士は,当時のセーガン博士の妻であった画家のリンダ・サルツマン・セーガンにコンセプトを伝え,後に「パイオニア探査機の金属板(Pioneer plaque)」として有名になる絵を描いてもらいます.

パイオニア探査機の金属板

パイオニア探査機の金属板

そこには文字は一切書かれていません.だって,宇宙人は地球の文字を読めないから.

この提案は,非常に強固な文字文化であるユーロアメリカ文化の中では大変な困難があったに違いないと,僕は見ています.そして,きっと1964年東京オリンピックも影響したのではないかと,僕は疑っています.

でもその前に,この絵そのものの解説をしておきましょう.この金属板は金ぴかに見えますが,実際には陽極酸化処理アルミニウム合金つまりはアルマイトです.日本のお弁当箱ですね.サイズは幅9インチ(229ミリメートル),高さ6インチ(152ミリメートル)で,厚みは0.05インチ(1.27ミリメートル)です.縦横比が2:3になるように選んだのでしょうね.サイズ感はほぼA5サイズ(210ミリメートル×148ミリメートル)です.アルマイトのお弁当箱はだいたい0.7ミリメートル厚のものを使うことが多いですから,お弁当箱よりは少し分厚い板材をイメージして下さい.

まず目を引くのは,裸の男女の人間の絵と,その背後にあるパイオニア10号のイラストでしょう.これはもちろん,地球にはこんな生物がいて,このぐらいのサイズですよというメッセージです.厳密に言うと,女性の身長は168センチメートルになっています.日本人女性の平均身長は160センチメートルよりも小さいので,日本人から見たら高身長ということになりますね.

服を着ていない男女のイラストを政府機関が公に使うことは,当時のアメリカ文化圏では大きなスキャンダルになりました.実際,この女性のイラストには女性器が描かれていません.当初デザインには描かれていたそうなのですが,NASAの宇宙科学部長・主任研究者であったジョン・ノーグルによって却下されたそうです.

男性が右手を上げているのは,手や指を動かせることを示すためです.また「友好」の意味合いも込められたものだそうです.これが宇宙人にとって「敵対」の意味で無ければ良いのですが.映画「マーズ・アタック!」では地球人にとっての平和の象徴「鳩」が,火星人にとっては「戦争」の象徴だったという小話が挟み込まれていますね.

宇宙人と地球人とで共有しないといけない最初の物理量は,時間と距離の単位です.パイオニア10号のイラストは描かれてはいますが,パイオニア10号そのものが大きく破損したり失われている可能性もあります.そこで「金属板」の左上に描かれたふたつの円が意味を持ちます.これは,宇宙にもっともありふれた水素原子の模式図です.左側の丸が,電子軌道が「平行スピン」の水素原子,右側の丸が,電子軌道が「反平行スピン」の水素原子です.水素原子にはこのふたつの状態があるのです.「平行スピン」のほうがエネルギーを若干多く持っており「反平行スピン」に移行する際にフォトン(光子)を放出します.このフォトンの振動数は1.42ギガヘルツ(GHz),波長は21センチメートル(cm)なので,これを時間および距離の単位とします.

これなら宇宙共通の時間と距離の単位として使えますね.これは科学的な用語ではありませんが,便宜上それぞれ「水素時間」「水素距離」と呼ぶことにしておきましょう.

先ほどの女性の身長ですが,この21センチメートルの8倍つまり8「水素距離」であることを示すために,女性の横に2進数で「8」と書かれています.そう,10進数は地球ローカルの表現なので,一番簡単な2進数を使っているのですね.

この金属板にはもうひとつ,画期的なメッセージが込められています.金属板の左側に,放射状の線が何本も描かれていますよね.マンガで言えば集中線のような線です.これは我々の「太陽」の位置を示す地図なのです.

この広い宇宙で,どうやって太陽の位置を地図に記すことが出来るでしょうか.

ここで海の地図,つまり「海図」を想像してみて下さい.広い海の中で,どうやって自分の位置を知ることが出来るでしょうか?宇宙にいるのと同じように,星座が使えないとしたら.

灯台が描き込まれた海図の例

灯台が描き込まれた海図の例

船乗りたちは,灯台を使って自分たちの位置を決める方法を発明しました.灯台はそれぞれ点滅周期が異なるので,海図と付き合わせると今見ている灯台がどこの灯台かわかります.灯台を複数見つけると,その角度から三角測量を用いて船の位置を正確に求めることが出来ます.

同じことが宇宙でも出来ないでしょうか.地上の灯台のように,周期の異なる光を発する星は無いでしょうか.

あるのです.それが「パルサー」という種類の星です.

金属板に描かれた直線には,2進数で数字が書かれています.この数字は,パルサーの周期が「水素時間」の何倍かを示しています.また直線の長さは,太陽から各々のパルサーまでの相対距離を表しています.

これによって,宇宙人は太陽の位置を知ることが出来るのですね.

そして,一番下の太陽系の模式図を見ます.これは太陽系がどのような惑星系なのか,パイオニア10号がどのようにして太陽系を出発してきたのかを示しています.これを見ると,太陽系第3惑星の地球からパイオニア10号が出発したこと,つまり第3惑星に知的生命体がいること,第6惑星(土星)には輪があること,第9惑星(冥王星)まであることなどがわかります.なお2006年から,冥王星は準惑星に分類されています.

ここまで書いてあると,近隣の惑星系と間違えませんね.僕なら,地球の横に,地球の1/4のサイズを持つ月も描いておいたほうが宇宙人には親切だっただろうなあと思います.惑星の1/4のサイズを持つ衛星は,宇宙広しと言えどめったにないため,いい目印になると思うのです.もっとも,これはファウンデーションシリーズを読んだからそう思うのかもしれません.

さて,この「お手紙」に見られる,東京オリンピック(1964)の遺産とは何でしょうか.

東京オリンピック(1964)の遺産「絵ことば」

1964年東京オリンピックは,アジアで開催された最初のオリンピックでした.東京育ちの母からは,当時の東京の思い出を聞いたことが何度かあります.当然「闇」の部分もあったようなのですが「戦後」に区切りをつけるために必要だったのかもしれませんね.

この東京オリンピック(1964)は数々の「レガシー(遺産)」を我々に残しました.その最大のものは「デザイン」という考え方を残したことだと,僕は思います.

現在,屋外のサインやポスターで絶対に欠かせない「ヘルベチカ(Helvetica)」というフォントは,この東京オリンピックで初めて大規模利用されました.ヘルベチカはMacやiPhoneをはじめとするアップル社製品の標準搭載フォントとして使われ続けていますし,Windows陣営も「アリアル(Arial)」という偽ヘルベチカを標準搭載しています.

そして,東京オリンピック(1964)が決定的役割を果たしたのは「ピクトグラム」の導入においてでした.

オリンピックの公用語であるフランス語や英語は,開催国である日本やアジアの人々には分かりにくいものです.かといって

Football・サッカー・橄榄球

とするのも文字数が多すぎます.

東京オリンピックの「絵ことば」 (NHK)

東京オリンピックの「絵ことば」 (NHK)

ここで日本人デザイナーたちが発明したのが,競技種目を絵で表すことでした.この試みは日本語では「絵ことば」英語では「ピクトグラム(pictogram)」と呼ばれました.

ピクトグラム自体は20世紀のヨーロッパの道路標識で数種類が使われ始めたのですが,国際イベントで,大量に,なおかつデザイン性の高いピクトグラムが使われたのは東京オリンピック(1964)が最初でした.

その後国際的なイベントでは,積極的にピクトグラムが採用されるようになっていきます.例えば日本人がデザインした「非常口マーク」は1987年にISO標準となっています.

パイオニア10号に搭載された金属板もまた,1964年にムーブメントを起こした「絵ことば」で描かれた手紙と言えるでしょう.

ところで,今年の東京オリンピックの開会式では「ピクトグラム50個の連続パフォーマンス」が行われました.この東京オリンピックは1964年からの連続性もテーマに掲げていたので,このような歴史的背景を踏まえてのパフォーマンスだったのでしょうね.

いやあ,2度目の東京オリンピック,今年だったんですね.ずいぶん昔のような印象を持ってしまいました.

カール・セーガン博士が夢見た宇宙との交信

1973年4月6日,パイオニア10号が打ち上げられたのと同じケープカナベラル空軍基地から宇宙探査機「パイオニア11号」が打ち上げられています.パイオニア11号は1974年に木星へ到達し,1979年に土星に立ち寄った後,太陽系を脱出する旅に出ました.パイオニア11号はパイオニア10号と同じ手紙を運んでいますが,その方向はパイオニア10号とはほぼ正反対です.

1977年9月5日,ボイジャー1号が打ち上げられました.ボイジャー1号は現在でも運用中で,当初の惑星探査の目的は終え,星間飛行調査を行っています.続く8月20日ボイジャー2号も打ち上げられ,ボイジャー1号と並んで星間飛行ミッションを続けています.

ボイジャー2号の想像図

ボイジャー2号の想像図

両方のボイジャーには「ゴールデンレコード」というレコード盤(アナログレコード)が搭載されています.このレコード盤を監修したのは,パイオニア探査機の金属板に引き続いてカール・セーガン博士でした.彼は波,風,雷といった自然の音や,鳥や鯨などの動物の鳴き声を収録しました.また音楽,55カ国語によるあいさつ,アメリカ合衆国大統領および国連事務総長のメッセージ音声も収録されています.

ゴールデンレコード

ゴールデンレコード

それどころか,アナログ・コード化された画像もレコードに収められました.このレコードを今渡されても読めるかどうか自信が無くなってしまいますが,賢い宇宙人なら,きっと我々の存在を見つけてくれるでしょう.レコードの裏面には,パルサーの位置から我々の太陽を見つかるための放射状の線が刻まれています.

またレコード盤自体は銅に金メッキを施したもので,アルミニウム製のカバーに収められています.このカバーは放射性元素であるウラン238(劣化ウラン)によって覆われています.ウラン238は大変ゆっくりと放射線を出します.半減期は45億年で,より安定な放射性元素トリウム234へと変化します.宇宙人がこのレコードを見つけたら,そして地球人がレコードジャケットに100パーセントのウラン238を塗ったと仮定できたら,このレコードが何億年前に地球を出発したのか,見当をつけることが出来るのです.

カール・セーガン博士は終生,宇宙との交信を夢見ていました.その言葉として最初に選んだのが,日本人デザイナーたちが世界に広めた「絵ことば」だったのは,とても面白いですね.

はやぶさ2が持ち帰った「生命のもと」

「はやぶさ2」が持ち帰った資料 (Yada et. al., Nature Astronomy)

「はやぶさ2」が持ち帰った資料 (Yada et. al., Nature Astronomy)

2020年12月6日に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った資料の分析結果が,今週科学論文誌 Nature Astronomy で発表されました.はやぶさ2が着陸しサンプル収集したのは,リュウグウという45億年前に太陽系が形成されて以来ほとんど変化せずに残っていると考えられる小惑星です.

発表によると,リュウグウは粘土状の物質「フィロケイ酸塩」を主成分とし,炭酸塩,鉄,揮発性化合物などが含まれているそうです.フィロケイ酸塩というと,我々電気屋の間ではマイカ(雲母,きらら)を思い浮かべますね.また多孔質であることから,かつては水と有機物を豊富に含んでいたことが示唆されています.

水と炭素は「生命のもと」ですから,太陽系にはもともと生命を生み出す仕組みが整っていたのかもしれません.いや,もともと太陽系に水と炭素があったから,現在の知的生命つまりは人間が水と炭素から出来ていると考える方が合理的ですね.

そして,この宇宙ではいくつもの惑星系が生まれていることを考えると,そこには水と炭素が豊富にあって,我々と似たような知的生命が生まれている可能性があります.

2021年12月25日,つまり明日,宇宙への打ち上げが予定されている「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡は,我々以外の惑星系の探査にも,その力を発揮する予定です.

【お知らせ】STEAMボート乗組員(有料購読者様)へ「赤裸々な」特別配信をお送りします

STEAMボート乗組員(有料購読者様)へ,最初の1年を支えて下さったお礼に,年末に4本の特別記事を配信いたします!すでに書き上げているのですが,そこそこ攻めた内容になっています.来年から有料購読してみようかなとお考えの方も,今日ご登録頂ければ明日から配信されます.是非お楽しみ下さい.

特別配信1「研究費は『ボールペン』で」(第56号)

僕が最初に着任した和歌山大学で見た,壮絶な風景をご紹介します.このときは人生初体験だったので,大学ってこんなところなのかと思ったのですが,今思うと当時としてはかなり特殊な状況でした.なにせ予算がマイナスだったのです.しかし,あれから20年たったいま,同じことが日本中で始まっています.(12月25日配信予定)

特別配信2「大学の『センセイ』の就職事情」(第57号)

大学の「センセイ」にはどうやったらなれるの?大学の「センセイ」は普段何してるの?どうして大学の「センセイ」はいつも就職活動をしているの?という疑問に真っ正面からお答えしてみます.大学の「センセイ」向けの「就活サイト」についてもお話しします.(12月26日配信予定)

特別配信3「研究費を『稼ぐ』話」(第58号)

1990年頃までは,大学には「研究予算」がありました.現在は大学の先生たちが一種の「営業活動」をして研究費を「稼ぐ」必要があります.研究費を稼ぐとはどういうことか,どんな苦労があって,どんなノウハウがあるのか,詳しくお話しします.(12月27日配信予定)

特別配信4「『面白い』巨塔」(第59号)

大学についてまことしやかに話されている噂話を検証してみます.「学閥は?」「上下関係は?」「教員同士は嫉妬する?」「お血筋てなに?」などなど,小説「白い巨塔」をヒントにリアル「面白い」巨塔についてお話しします.これを読めば楽しく年を越せますよ.(12月28日配信予定)

おすすめ動画

M-1グランプリ2019

M-1グランプリ2019

おっと,意外な動画をご紹介してしまいました.

皆さんは今年の「M-1グランプリ」をご覧になりましたでしょうか.優勝した漫才師のボケ担当の方,知り合いのエジプト人に大変よく似ていらっしゃって,もう,喋り出す前から僕は笑い転げていました.

ここで「お笑い」というエンタテインメントをご紹介するのには理由があります.「STEAMニュース」の「A」はアートを意味しているのですが,日本では歴史的に見てアートとエンタテインメントの区別が曖昧でした.そもそもアートの訳語である「芸術」という言葉自体,明治時代に作られた造語です.

芸術という言葉が無かったからと言って,芸術が無かったわけではありません.それどころか,優れた芸術は無数に生み出されています.その中には,エンタテインメントの中から「芸術性」を高く評価されたものがいくつもあります.俳句だって,歌舞伎だって,庶民のエンタテインメントの中から生まれたものですし,そのこと自体が僕は芸術的だと思います.

もっと新しい例としては,マンガやゲームがエンタテイメントから生まれたアートとして記憶されるでしょう.このように,アートのかたちは絶えず変わっていくものなのですね.

だから,アートの研究者は,エンタテインメントも必ず見ておかないといけないのだと,僕は思います.

というわけで,M-1グランプリのご紹介でした.今年も良かったのですが,2019も大変面白かったのでおすすめです.

おすすめ書籍

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《数学は,時を越える》をテーマにおいた本書は,本格的な数学の奥深いおもしろみをすべての読者に提供するでしょう.
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1年前,このニュースレターの【創刊号】をお送りしたときから,是非ご紹介したいと思っていた書籍です.というより,本書に憧れて,僕は「STEAMニュース」を立ち上げました.

数学がここまで魅力的に語られることがあるのならば,きっとSTEAM(科学・技術・工学・アート・数学)についても,読者を魅了するような文章があるに違いないと思いました.それを僕が書けるのか,見つけられるのかは疑問でしたし,1年経った今も暗中模索なのですが,それでも本書という,僕にとっての「灯台」があるから,書き続けることが出来ました.

結城浩先生への特別の感謝を込めて,ニュースレター1周年の「おすすめ書籍」に紹介させて頂きます.

わくわくする本ですよ!

Q&A

匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.

今週はQuoraで頂いたこの質問から.

江戸っ子は「宵越しの銭は持たない」と言ったそうですが、老後は大丈夫だったのですか?
Quora

江戸っ子の母を持つ大阪人です.

母は「付け払い」という商習慣が苦手で,特に年を越して付けが残ることを大変に嫌がりました.「江戸っ子はね,ちゃっちゃっと払っちゃうのよ.付けで手元に残った現金なんて,宵(大晦日の夜)を越したら気持ち悪くて使えないわ」てなもんでした.

周囲の大阪商人からは「きっちり払うてもろて,ほんまおおきに」と評判でした.

というわけで「宵越しの銭は持たない」は母の場合「年またぎの付け(借金)を残さない」という意味だったので,老後の心配とはまた別でした.

息子は立派な大阪人に育ちました.

このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.

このニュースレターが皆様のお手元に届くころ,僕は再び壱岐の島へ向かっています.もう壱岐に通いすぎていて,ついに現地でコワーキングスペースを借りてしまいました.今回の仕事は夕方までかかるので,飛行機で帰ってこれないことが確定しています.予定では船で博多港を目指して,そこから特急かもめで長崎へ戻る予定なのですが,海が時化気味なのでどうなることやら.

先週金曜日には「バーチャル学会」というイベントがありました.これはVRアプリの「クラスター」を使った発表会で,参加してみるとZoom(遠隔ビデオ会議)とも対面とも違う,これはこれでありかなという体験でした.リモート会議システムはすでに幾つもあり,それらのだいたい全てが対面の会議の弱点,例えばステージから離れると見えづらいとかを克服しているのですが,この「クラスター」は現実世界の悪い点がそのまま反映されているのです.

クラスターで参加するM-1グランプリ(2021)

クラスターで参加するM-1グランプリ(2021)

そして,その翌々日,人気企画「M-1グランプリ」がこのVRアプリ「クラスター」で放映されたのです.しかも,アプリ内には常に「ミルクボーイ」の2人が常駐していました.僕は自宅にTVを置いていないのですが,今年のM-1に関してはもしTVがあっても,VRで見たかもしれません.

「クラスター」では後方からだとステージが見づらいという現実世界の弱点をそのまま再現していたのですが,もっと悪いことに参加者の文字によるヤジもまた目に入るようになっていました.多分,設定のどこかをいじればオフに出来たのでしょうが,漫才を見逃したくなかったので,設定画面を開かなかったんですよね.その結果,画面の端を大量の「ヤジ」「上から目線コメント」が流れていくことを横目に見ることになりました.

このようなヤジに怒り出す漫才師は結構いらっしゃるようですし,それはそれで当然だとも思います.僕なら怒ります.しかし,ある日ふと気づいたんですよね.僕は古典落語の録音もよく聞くのですが,古い録音だと客席からのヤジが入っていたりするんです.偶然なのかもしれませんが,落語家ともなると,飛ばされたヤジに「いやぁ,こっちも一生懸命やってますんで,ひとつご勘弁を」なんて大人の対応をされることが多いように感じます.

漫才が戦後からの歴史しか無いのに対して,落語は江戸時代から続くこと,芸術として認められていることから,ひょっとしたらパフォーマーの「心の余裕」に繋がっているのか,あるいは教育システムがそうなっているのかもと思ったのでした.

アートを育てるってそういうことやぞ,と自分にも学生にも言い聞かせたいと思います.

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ニュースレター「STEAM NEWS by Ichi」

金谷一朗(いち)

TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピュータ代表・長崎大学情報データ科学部教授

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