名前【第257号】

「名前」が意味するもの――区別・記憶・物語.
いち 2025.10.31
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いちです,おはようございます.

実はプロのイラストレーターとして商業出版されたお仕事を1度だけさせていただいたことがあります.そんな経験のおかげなのか,プロの考古学者に混じって遺跡のスケッチを描くことが楽しくて仕方ありません.ただ僕が描くと3D調になってしまって,必死で2D調に描き直しています.ほんと,時間があればスクリーントーンを貼りたいぐらい……

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さて,そんな零細イラストレーターとして僕が憧れるのは江口寿史さん……も,なのですが,一番憧れたのがenaさんでした.雑誌「Mac Power」の連載で彼女を知り,知り合いの作家さんとの打ち合わせで,オンラインで一度だけお会いしたことがあります.そんな彼女がイラストを提供していた作品に小西康陽の「女の子には名前がある.」があります.

歴史を振り返ってみると,女性の名前って残っていないのですよね.織田信長の正妻「濃姫」さえ,当時の名前は残っていません.そのために彼女の最期についてもほとんどわかっていません.本能寺で信長と運命をともにしたという説もありますし,長生きしたとする説もあります.

濃姫が結婚したのは数え15歳のときだそうです.この少女の名前が残っていたら,歴史研究はずいぶんと進捗したことでしょう.

名前とはとは,対象を区別するための言葉や記号です.僕たちはあまりにも当たり前のように名前を使っていますが,これが存在しなければ,会話も記録も著しく困難になります.動物や人,もの,出来事,概念……あらゆるものに名前を与えることで,それぞれを識別し,認識し,記憶できるようになります.たとえば「赤ずきん」という名前がなかったら,あの物語を他の話や人物と区別するのは難しいでしょう.

名前には,単に区別する役割だけでなく,意味や物語,関係性を付与したり,価値や期待,愛情を込めたりする働きもあります.人の名前なら,親の願いや時代の流行が反映されることも少なくありません.

また,科学や技術の世界でも命名はとても大事な営みです.新しく発見した生物や星,技術や法則には,必ず名前を与えます.番号や記号も名付けの一形態です.

つまり名前とは,世界を区切り,意味を与え,記録し,共有するための人類の重要な発明のひとつなのです.

そんな名前について,本稿ではとくに科学者や技術者が使いがちな名付けを,徒然なるままに書いてみます.

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(Cover Photo by Christopher Campbell on Unsplash)

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