タイムカプセル【第292号】
いちです,おはようございます.
古代メソポタミアの叙事詩「ギルガメシュ叙事詩」は,現存する最古の文学作品のひとつです.この物語が僕たちの手元に伝わっているのは,粘土板に刻まれ,数千年の時を超えて発掘されたからです.文字通り「時間のカプセル」となった粘土板が,古代の人々の思いや知恵,物語を現代に運んでくれました.
また,ギルガメシュ叙事詩の物語の最後には,主人公ギルガメシュが自身の旅と知恵について青銅の箱に記し,都市の城壁の中に埋める場面が描かれています.この青銅の箱は,まさにタイムカプセルのような役割を果たし,彼の経験や思いを未来の人々に伝えようとしたものです.

タイム・カプセルEXPO'70(大阪歴史博物館)
タイムカプセルとは,まさに現代の僕たちが未来へ向けて何かを託す行為です.ギルガメシュの物語がそうであったように,どんな時代でも,人は「自分たちの声や記憶が遠い未来の誰かに届いてほしい」と願って,形あるものや言葉を残そうとしてきました.
今週は「タイムカプセル」というテーマを通じて,失われゆくものと,時を超えて伝えたい思いについて考えていきます.
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《目次》
ウェスティングハウスのタイムカプセル:6939年への手紙(1939年)
忘れられたカプセル:記録が先に消えるとき
核廃棄物の警告:1万年後に開けないでほしいメッセージ
今週の書籍
今週のTEDトーク
Q&A
一伍一什のはなし
(Cover Photo by Matt Seymour on Unsplash)
ウェスティングハウスのタイムカプセル:6939年への手紙(1939年)

The Westinghouse Time Capsule (Heinz History Center)
1939年,アメリカ・ニューヨーク万国博覧会において,ウェスティングハウス(Westinghouse)社によって「タイムカプセル」が埋設されました.これは西暦6939年,つまり5000年後に開封されることを目的とした壮大なプロジェクトです.直径約20センチメートル,長さ約2.3メートルのカプセルには,当時の最先端技術や日用品,新聞,種子,衣類,小型のおもちゃ,そして手紙やメッセージなど,現代社会を象徴するさまざまな品々が収められました.
タイムカプセルが設置された当時,人類が5,000年後も言葉や文化を受け継いでいるとは限らないという観点から,英語の基礎や説明書,さらには世界の主要な言語で書かれた「開封方法」や「人類へのメッセージ」も同梱されています.また,カプセル自体が腐食しにくい素材で作られており,長い時を耐え抜く工夫がなされています.
このプロジェクトを通じてウェスティングハウス社が伝えたかったのは「現在」という時代を未来の人々にどう伝えるか,そして「人類」という概念がいかに時間の流れとともに試されるかという問いです.タイムカプセルに込められた願いは,超長期的な視点で人類の歴史や進歩を見つめ,未来の人たちへ直接語りかけることに他なりません.
タイムカプセルの設置以降,その理念は世界各地に広がり,多くのコミュニティや組織が思い思いのタイムカプセルを埋めています.「6939年への手紙」は,今なお「未来に思いを託す」という人間の普遍的な願望の象徴として語り継がれているのです.
タイムカプセルの素材には,長期間にわたって内部を保護できるよう,特別な工夫が施されています.ウェスティングハウスのタイムカプセルの場合「Cupaloy」と呼ばれる銅99.4パーセント,クロム0.5パーセント,銀0.1パーセントの合金が使われています.この合金は,通常の鉄よりも高い耐食性を持ち,地中の水分や化学反応による腐食からカプセルの中身を守る役割を果たします.なお「Cupaloy」に銅が使われた理由として「古代エジプト人が銅製品を使っていたから(現代まで残っているから)」とする意見もあります.
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