【第10号】火星の人
先週(2021年2月18日),アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「パーサヴィアランス」が火星に着陸しました.2020年7月30日に打ち上げられた探査機で,人類には2年ぶりの訪問になります.火星探査機の歴史は1960年代にさかのぼり,これまでに50機近くが投入されていて,そのうち3分の1ほどが大きな成功を収めています.

惑星ひとめぐり
火星は長い間,そして今でも,人類を魅了し続けています.一体何が人を火星に惹きつけるのでしょうか.
ご存知の通り,火星は地球と同じく太陽の周りを回る惑星です.地球より内側を回る惑星を内惑星,地球より外側を回る惑星を外惑星と呼びます.また,地球のように硬い地面を持つ惑星を「地球型惑星」と呼び,木星や土星のようなガスから出来た惑星を「木星型惑星」と呼んで区別します.火星は硬い地面を持つので地球型惑星に区分されます.
地上から肉眼で見られる惑星は水星,金星,火星,木星,土星,そして非常にまれに天王星だけですが,天動説が信じられていた時代までは,これに太陽と月を加えた7個の天体(天王星を除く)が「惑星」にカウントされていました.これら7惑星は天球の恒星とは異なった運行の仕方をするため,また別格の太陽と月を除いても大変明るいため,ずっと人類を魅了してきたのでしょう.
これらの惑星のうち,木星は他のいかなる恒星よりも明るく,動きもゆっくりしているため,天界の支配者とみなされたのでしょう.木星は古代ギリシアでは大神「ゼウス」(ローマ名ユピテル)の惑星とされました.なお木星は暫くは観測しづらい時期が続きますが,今年6月になると真夜中に夜空に昇るようになります.6月の英語名ジューン(June)の語源である女神ユノー(Juno)は古代ローマの主神ユピテル,つまり古代ギリシアのゼウスの妻なので,こと2021年に関して言えば天空は夫婦円満といったところでしょうか.
土星の方はと言うと,ガリレオ・ガリレイが「土星の輪」を発見するまでは,7惑星の中で最も暗いためか,どちらかと言うと地味な印象でした.土星には農耕の神「クロノス」(ローマ名サトゥルヌス)が割り当てられていますが,ゼウスを始めとする他の惑星の神々と違い「オリュンポス十二神」には含まれていません.オリュンポス十二神とは,ギリシア最高峰のオリュンポス(オリンポス)山に住む最重要な神々のことです.
水星はどうでしょうか.水星は太陽にあまりにも近いため,日の出直前か日の入り直後の短時間しか見られる機会がありません.また数字の上ではとりわけ明るい惑星でもありません.ただし,そうは言っても日の入り直後などは他の星が見えませんから,実際に水星を見るとかなり明るい印象は受けます.すぐに見えなくなってしまう「忙しい」惑星なので,天界のビジネスマン「ヘルメス」(ローマ名メルクリウス)になったのですね.
そして金星.金星も水星と同じく内惑星なので,日の出前か日の入り後のわずかな時間しか見られません.ただし水星よりは太陽との距離があるため,しばらくは天に滞在してくれます.また太陽と月に次ぐ明るさを持ちます.日の出前なら「明けの明星」,日の入り後なら「宵の明星」と呼ばれますね.金星は文字通り金色に輝くためでしょうか,愛と美と性の女神「アプロディーテ」(ローマ名ウェヌス)の惑星とされています.金星は,今週の主人公「火星」と同じぐらい,人類を魅了してきました.これまで送り込まれた探査機の数も約40機と,火星に匹敵します.
さてお待ちかね,火星です.火星は外惑星なので,太陽とは無関係に動くように見えます.火星を際立たせているのはその色でしょう.金星が金色に輝くように,火星は火のように赤く輝きます.明るさも金星に次いで,木星と同じ地位を分け合っています.その赤さは「血」を想像させるのか,古代ギリシア人は軍神「アレス」(ローマ名マルス)を割り当てました.今でも英語で「赤い惑星」と言えば火星のことを指します.
ティコの観測
16世紀デンマークの天文学者で,月面のクレーターにも名前を残す「ティコ・ブラーエ」は,精緻に火星を観測した人でした.ティコの弟子であったヨハネス・ケプラーはこの観測結果からついに地動説を唱えるに至るのですが,ティコ自身は天動説を信じていました.ティコの観測によって,ティコの意思とは反対に,惑星は天界の神々の地位から地球と同じ「太陽を巡る星」という地位へと引っ張り出されたことになります.
ケプラーはティコの観測結果から,火星が楕円軌道を描くこと,そして地球と火星の距離が近づいたり離れたりすることを予測可能なかたちで示しました.なお,惑星の運行法則を完全に解明したのは,ほぼ同時代の人でケプラーの良き理解者であったガリレオ・ガリレイ,後のアイザック・ニュートン,さらに後のアルベルト・アインシュタインの仕事です.
ティコは優れた観測者であったようで,1572年には偶然現れた超新星(通称「ティコの超新星」)の観測もしています.彼の観測が画期的だったのは,その超新星が月や他の惑星よりも「遠く」にあることを見つけたことです.これは「惑星から向こう側の世界は普遍」という当時の世界観に相入れないものでした.天動説を信じていたとはいえ,合理的な思考能力を持っていたのですね.超新星については本誌【第8号】でもご紹介していますので,ぜひご参考になさってください.
残念ながら,ティコはあろうことか「おしっこを我慢しすぎて」亡くなったと言われています.1601年にプラハで開かれた宴席で,同席した貴族に気を遣ってトイレに立つことを我慢したことが原因と言われています.ティコの死因については水銀中毒も疑われていたのですが,2010年の遺体の「再」調査で否定されています.一時はケプラーによる毒殺説まで流されていましたが,師弟関係は良好だったようですね.なお1度目の遺体調査は1901年でした.
ティコは「望遠鏡を使わなかった最後の天文学者」と言われています.望遠鏡を初めて使った天文学者はもちろんガリレオで,人類で初めて望遠鏡を火星に向けたのもガリレオです.
火星人?
望遠鏡を使って火星を詳しく調べた人物がいます.19世紀アメリカの天文学者「パーシバル・ローウェル」です.彼はアリゾナ州フラッグスタッフ市の「火星ヶ丘」に「ローウェル天文台」を建設して,火星の観測を行いました.このローウェル天文台は2011年に米国誌「タイム」(TIME)によって「世界の重要施設100選」に選ばれています.
1896に火星ヶ丘に設置されたローウェルの望遠鏡は「61cm屈折式」という,現代から見ても十分な性能を持つものでした.例えば1972年に日本の飛騨天文台に設置された「65cm屈折式」は当時「東洋一」と言われたそうです.もしローウェルが「先入観」に囚われていなければ,彼は精緻かつ正確な火星地図を残したに違いありません.
ここで「精緻」なことと「正確」なことは意味が異なることを思い出しておきましょう.どれだけ精緻に描き込まれた地図であっても,それが現実を反映していなければ正確とは言えません.
ローウェルが描いた地図はまさにこれで,精緻ではあったのですが,正確ではなかったのです.

ローウェルが描いた火星マップ(1895)
彼は望遠鏡を通して,火星の「運河」を見ました.河川ではありません.運河です.そしてローウェルは,この運河が「火星人」によって建設されたものだと主張しました.その後の観測(これはまさに火星ヶ丘からの観測も含みます)によって,そして火星探査機による調査によって徹底的に,ローウェルの見た運河は存在しないことが示されています.しかし,ローウェルは生涯「運河が見える」と主張し続けました.
ローウェルが先入観を持って火星を観察したのは明らかなのですが,なぜその先入観を持ったかについてはいくつかの説があるようです.最有力なのは,1877年にイタリア人天文学者ジョバンニ・スキアパレッリが「火星に網目状の長い線」があると見つけたことです.彼はこれを「溝」を意味するイタリア語canaliと呼んだのですが,これが英訳された時にcanalsつまり「運河」になってしまいました.ローウェルはこの英訳を読んだというのです.また時代的にも,ローウェルの活躍した19世紀後半は世界的な(地球の)運河建設期でした.
「火星の運河」の教訓は,僕のようなアマチュア天文家の間でも繰り返し語られています.「何かを見たい」と思って物事を見るなと.古代ローマの天才,ユリウス・カエサルはかつて「人間ならば誰にでも,現実の全てが見えるわけではない.多くの人たちは,見たいと欲する現実しか見ていない」と語ったそうです.カエサルは大局的なものの見方について語ったのでしょうが,このような「観測」にも現れてしまう人間の性なのでしょうね.
2016年に「ナショナル・ジオグラフィック」誌が「火星地図の200年の歴史」と題した記事を紹介しています.スキアパレッリ,ローウェルの火星地図も紹介されています.
火星の生命
ローウェルによる「火星の運河」は火星観測によって否定されていますが,火星に液体の水があること(あったこと),火星に生命がいること(いたこと)は否定されていません.それどころか,火星の水,火星の生命を示唆する状況証拠が無くはないのです.その確証に近づくために,探査機「パーサヴィアランス」は今まさに火星表面に降り立っているのです.
一体,どんな状況証拠がこれまでに見つかっているのでしょうか.
火星探査機「オポチュニティ」によって,火星の岩石からまん丸な赤鉄鉱(ヘマタイト)が見つかっています.赤鉄鉱がまん丸になるのは,液体の水が存在した証拠とみなされています.別の火星探査機「スピリット」は針鉄鉱(ゲータイト)を発見しています.針鉄鉱は液体の水が存在する環境でだけ作られるため,これは火星に液体の水が存在した有力な証拠と見られています.水そのものに関して言えば「2001マーズ・オデッセイ」による調査で氷の存在が確認されているため,かつて,あるいは現在も,液体として存在したかということが論点なわけですね.
火星上空を回る探査機「マーズ・グローバル・サーベイヤー」は2006年に,火星表面に液体が流れたと考えられる痕跡を撮影しています.同じ場所を撮影した1999年の写真には痕跡が映っていないため,それ以降のどこかで液体が流れたものと考えられます.
マーズ・グローバル・サーベイヤーの後から火星上空に到達した探査機「マーズ・リコネッサンス・オービター」は上空から火星に「石膏」があることを発見しました.これは,後でオポチュニティによって地上からも確認されています.石膏は内部に水分子を含むため,これもかつて火星に液体の水があった証拠ではないかと考えられています.
火星には薄いながら大気が存在します.気圧は地球の1/100程度.主成分は二酸化炭素で,微量の窒素,アルゴンが含まれています.そして,大気全体の1億分の1ほどの分量ですが「メタン」ガスが含まれていることがわかっています.メタンは生物由来である「こともある」ため,現在詳しく調べられています.
最後に,僕のお気に入りの状況証拠をご紹介します.こちらはまだ議論の余地があるのですが,南極で見つかった火星起源の隕石「Allan Hills 84001」に「生命の痕跡」があると言われているものです.この隕石はおよそ1,700万年前,火星に別な隕石がぶつかった反動で火星から弾き飛ばされ,およそ13,000年前に地球に落ちたものと考えられています.この隕石の電子顕微鏡写真に「細菌(のようなもの)の化石」が写っていたのです.

Allan Hills 84001 の電子顕微鏡写真
火星の「細菌(のようなもの)」ですが,直径が20から100ナノメートル程度と,地球で見られる細菌(典型的には120から200ナノメートル)よりはワンサイズ小さめとなっています.このサイズでは生命活動は無理だろうという批判もあり,今後の調査が待たれているところです.
パーサヴィアランスが目指すもの
NASAの火星探査機「パーサヴィアランス」は少し変わった方法で火星に着陸しました.着陸の様子を収めた映像が公開されているので,まだの方はぜひご覧ください.
パーサヴィアランスは本体だけで1トンを超す重量があります.これに突入,降下,着陸のためのシステムがくっつくわけです.パーサヴィアランスはまず時速21,000キロメートルで火星に突入します.突入後数分でパラシュートを開き時速1,600キロメートルまで一気に減速します.火星の大気はとても薄いので,パラシュートは直径21.5メートルと巨大なものが使われました.

パーサヴィアランスの着陸 (AFPBB News)
十分に減速された後,およそ高度7〜8キロメートルで「ランダー・ビジョン・システム」という新搭載の装置を用い,着陸に適した場所を探します.この着地点選びというのは,科学的に興味深いところ,そしてなおかつ,エンジニアが「ここなら探査機が動き回れる」と判断したところでなければいけません.
高度2キロメートル程度に達したところで,地上へ向かってロケットを逆噴射して,パーサヴィアランスの速度をさらに落とします.そして地上20メートル程度まで来ると,スカイクレーンという仕組みが発動します.3本のケーブルを使ってさらにゆっくりと降下するのです.
着陸したパーサヴィアランスは1〜2ヶ月をかけて,すべての搭載機器をテストしていきます.搭載機器の中には,史上初の火星ヘリコプター「インジェニュイティ」も含まれます.
テストを終えたパーサヴィアランスは,次のような研究目標へ向かって始動します.
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過去に微生物が生息できた環境があったかを特定する
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過去に微生物が生きていた証拠を探す
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火星表面のサンプルを収集し保存する(後で地球に送り返すかも)
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火星の大気から酸素を生産してみる(うまくいけば人間が住めるようになるかも!)
この科学調査は今後2年程度行われる予定で,本誌でも随時追いかけていきたいと思います.どんな成果が届けられるのか,楽しみですね.サンプルリターンは早くとも2031年と気の長い話ですが,それまでにもいろいろな発見があることは間違いありません.
NASAジェット推進研究所の日本人エンジニア大丸拓郎さんが,内部からの情報を日本語で発信してくださっています.こちらもよろしければご参考にどうぞ.
有人火星探査へ
火星探査機「パーサヴィアランス」が着陸に使ったパラシュートには,ちょっとしたメッセージが隠されていたことをご存知でしょうか?パラシュートに描かれた暗号を解読すると
DARE MIGHTY THINGS 34-11-58-14 118-10-31-23
となっています.「あえての大胆な挑戦,北緯34度11分58秒14,西経118度10分31秒23」といったところでしょうか.この緯度経度には「パーサヴィアランス」の管制室が置かれたNASAジェット推進研究所があります.このメッセージは,ひょっとしたら「次はもっと大胆なことを」という意味が込められているのかもしれません.

Can you decipher the final message?
「有人火星探査」は人類の大きな夢として語られ続けています.アメリカ,ロシア,欧州宇宙機関は何度か有人火星探査計画を表明していますし,今月火星軌道に探査機「天間1号」を送り込んだ中国も有人火星探査を目論んでいることでしょう.
今週の「おすすめ映画」でも有人火星探査をテーマにした作品をご紹介します.
ところで,地形に富む火星には,なんと「太陽系最大」の火山があります.これは地上の火山,いえいえ,地球最大となる海底火山を凌ぐ大きさなのです.ハワイの「マウナ・ロア山」は標高4,169メートルですが,海底から続くためその体積は75,000立方キロメートルと地球最大の山になります.マウナ・ロア山は重すぎて一部がマントルに沈んでいるらしく,その分も含めると標高は17,000メートルに達するそうです.

火星のオリンポス山 NASA/Corbis
一方の我らが火星の火山は,周囲の地表からの標高がおよそ27,000メートル.体積もマウナ・ロア山の100倍以上です.この巨大すぎる火山は,ギリシャ神話から名を借りて「オリンポス(オリュンポス)山」と呼ばれています.
将来,有人火星探査が実現した日には,宇宙飛行士がオリンポス山を見上げるかもしれません.
ローウェルにインスパイアされた作品たち
パーシバル・ローウェルは,天文学者カール・セーガンから「最悪の図面屋」と罵られます.しかし一方で,セーガンは「彼の後に続くすべての子供に夢を与えた」とも評しました.「2001年宇宙の旅」で知られるSF作家アーサー・C・クラークもまた「一体どうしたらあんなものが見えたのだろう」とローウェルを批判したそうですが,その一方で「数世代のSF作家たちが嬉々として発展させた神話の基礎をほとんど独力で築き上げた」とも持ち上げたそうです.
ローウェルの影響を受けた作品と言えば,やはりH・G・ウェルズの「宇宙戦争」が挙げられるでしょう.本作品はステーブン・スピルバーグ監督,トム・クルーズ主演で映画化もされています.また,レイ・ブラッドベリの「火星年代記」も火星を舞台にした名作で,こちらはTVドラマ化されています.
より広い意味でローウェルの影響を受けた作品には,ブラッドベリの友人でもあった作家アイザック・アシモフの「火星人の方法」,アシモフに強い影響を受けた(そして僕の大好きな)新井素子の「星へ行く船」も入れても良いかもしれません.
もう一つ,ローウェルの功績をご紹介しておきましょう.1930年,ローウェル天文台で太陽系第9惑星を探していた天文学者クライド・トンボーが「冥王星」を発見しました.本稿で述べたとおり,肉眼で見られる惑星・準惑星は基本的には土星までです.土星より外側に位置する天王星,海王星は望遠鏡でのみ観察可能です.
天王星は1781年にイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって発見されました.ハーシェルがプロの音楽家でもあったあたりはイギリスの伝統なのかもしれません.(イギリスのロックバンド「クイーン」のギタリストであるブライアン・メイは天文学者でもあります.)天王星は時期によっては肉眼で見えるため,歴史上何度か記録が残されています.ハーシェルも最初は肉眼で見つけたようで,軌道計算からそれが太陽系の未知の惑星だとわかったようです.
海王星は肉眼で見ることが全くできません.海王星は,天王星の予期せぬ軌道の変化から「存在を予測」された最初の天体となりました.天王星が未知の惑星の重力の影響を受けていると考えられたわけですね.計算によって求められたその惑星の位置に,海王星は発見されました.なお海王星は1612年12月28日と1613年1月27日の2度,偶然にもガリレオが覗いた望遠鏡の視野に入っています.
この海王星ですが,なんとまた未知の惑星による軌道の変化を受けている可能性が指摘されます.この未知の惑星は「惑星X」と呼ばれ,当のローウェルたちによって位置が推測されました.ローウェルの生存中には残念なことに「惑星X」を見つけられませんでしたが,ローウェルの死後14年経って,ついに「惑星X」が見つかったのです.
「惑星X」の命名をめぐっては長い物語があったようですが,最終的には11歳の少女の発案であるPluto(プルートー,冥王星)で決着しました.スペルの最初の2文字,PとLがパーシバル・ローウェルの頭文字になっていることが決め手だったと言われています.最終候補には農耕の神クロノスの名前も残っていましたが,土星のサトゥルヌスと重なってしまうため,良い名前だったと思います.ただし,プルートー(ローマ名)に対応するギリシア神「ハデス」はオリュンポス十二神の準メンバーで,冥王星の方も2006年に惑星から「準惑星」に格下げされてしまいました.地味過ぎましたかね.
おすすめTEDトーク

TED
ナギーン・コックスは第1世代の火星人です.NASAジェット推進研究所の宇宙船エンジニアとして,火星にある無人探査車を操作するチームで働いています.しかし火星の1日は地球の1日よりも40分長いため,この仕事には特有の,ときに笑いを誘う,苦難の数々が待ち受けています.
NASAジェット推進研究所の宇宙船エンジニアであるナギーン・コックスが火星探査にまつわるちょっとした苦労話をしてくれます.
実は火星の1日と地球の1日は40分しか違いません.そのため,将来人類が火星に移り住んだとしたら,地球時間の1日(デイ)の代わりに火星時間の1日(ソル)を使うことになるでしょう.実際,NASAの地上メンバーも,その家族も,火星時間で過ごすそうです.
ここでちょっと小話を.SF作家の新井素子先生,なんと火星の1日の長さが地球と大して変わらないということを「見落として」しまっていました.彼女の初期作品には,火星の1日は地球時間に合わせてあるというような記述があります.こういうの,SF作家さんあるあるなのかもしれませんね.
NASAのエンジニアも混乱するのですから.
おすすめ映画

マット・デイモン主演で,邦題がなぜか「オデッセイ」になっていますが,原題は “The Martian” (火星の人)です.
「火星の人」はアンディ・ウィアーという当時無名だった作家がウェブに連載していた小説で,2011年に自費出版されています.2014年ごろから「面白そうだ」と話題になったようで,僕も電子版を試し読みしたところ止まらなくなった記憶があります.
「火星に一人ぼっち」という設定がまず面白い.次に何度も襲ってくる絶望的な状況を科学と技術の力で乗り越えていくのが面白い.なお原作の方は主人公の日記という体裁を取っており,危機さえも一種の「自虐ギャグ」のように思えてくる明るさがあります.
小説の方は割とマニアックな話が多いので,ここは映画版をおすすめします.本当に面白いですよ.
今週は「おすすめ書籍」は省略させていただきますが,もし映画を見て興味が出てきたら,小説の方もいかがでしょうか.もちろん翻訳もありますが,原作も元がウェブ出版だけあって,我々外国人にも読みやすい英語で書かれています.
Q&A
匿名質問サイト「マシュマロ」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.
今週は質問サイトQuoraから僕の回答を紹介させていただきます.
締め切り日時に書かれているAoEとは何ですか?
海外の論文募集サイトなどで,締め切り日時にAoEと添えられていることがあるんですよね.これは何かというと Anywhere on Earth (地球上のどこでも)という意味で,例えば「締め切りは2021年2月26日AoE」と書かれていたら「地球上のどこでも23:59になるまで」に提出しろという意味です.地球上のどこでも,つまりは地球上で一番日付が変わるのが遅いところで,場所としてはアメリカ領ハウランド島とベーカー島が相当します.相当しますと言ったのは,どちらも無人島なんですよね.
無人島なんですが,その島の標準時刻(UTC-12)で「日付が変わるまで」という意味でした.
余談ですが,このAoEは国際規格で決められています.どんな国際規格かというと,無線通信規格IEEE802なんですよ.きっと委員会の会長が「えーい,どいつもこいつも,締め切り日はどこの国の時刻か聞きおって!どこでもええわ!(AoE!)」と言ったんでしょう.
なぜこんなことを書いているかというと,今週AoEな締め切りがあったからなんですがね.
こちらの匿名質問サイトで質問を受け付けています.質問をお待ちしております.
振り返り
このニュースレターでは「振り返り」ポッドキャストを公開しています.
それぞれポッドキャストプレイヤーでサブスクライブ(チャンネル登録)していただくと,自動的に最新エピソードが届きます.
今週は...ごめんなさい,毎週木曜日の夜に更新予定だったのですが,今週はこのニュースレター配信後の金曜日もしくはもう少し後になるかもしれません…と書いていたのですが,気を取り直して,短いながら【第10号】つまり今回の号の予告を送らせていただきました.
あと,YouTubeで近況を公開しました.
Clubhouseも相変わらず続けています.アカウントは @kanayafrica です.よろしければフォローしてみてください.
あとがき
今週は大学入試の「前期試験」がありました.はい,この原稿はまさに試験実施本部(試験会場ではありません)にiPadを持ち込んで書いています.試験実施本部というのは,試験中はトラブルがない限り静かなんですよね.まあトラブルはあるのですが.というわけで,今週は綱渡りの執筆になってしまいました.
多くの大学が利用する「共通テスト」の仕様が何度も変更されたため,受験生には多大な負担がかかったことは何度も報道されている通りです.一方,あまり報道はされていないかもしれないのですが,仕様変更の皺寄せが各大学に寄せられており,これがまたなんとも「キツい」状況を作っています.何十年も昔には「大学が好き放題するから受験生が可哀想だ」という意見があったそうですが,現在は行政による過剰なコントロールによって受験生も大学も首を絞められている状況でしょう.
火星はいま,おうし座の上を移動しています.今夜あたり,もし晴れたら,火星を見上げて心に余裕を取り戻そうと思います.
ニュースレター「STEAM NEWS by Ichi」
発行者:いち(金谷一朗)
TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピュータ代表・長崎大学情報データ科学部教授
Photo by Juli Kosolapova on Unsplash
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