議論・討論・談論を使い分けていますか?【第98号】
【140字まとめ】パネルディスカッションに参加してモヤモヤしたことはありませんか?立教大学の中原淳先生が「パネルディスカッションのトホホ文法」として5種類の残念パターンを紹介されています.この号では残念パターンの原因と対策,そして気をつけたい議論・討論・談論の違いをご紹介します.
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いちです,おはようございます.
いまロンドンでこの記事を書いています.
前号をアレクサンドリアからお送りした後,いったん長崎に戻りまして数時間滞在し,再びローマ帝国圏内に戻ってきました.出来ればアレクサンドリアからロンドンへまっすぐ移動したかったのですが,急な日程変更や予算の関係でこのような日程になってしまいました.
ロンドンでは「グローバル・イノベーションのための対話 (Dialogue for Global Innovation)」というシンポジウムの開催をお手伝いさせて頂いています.
ロンドンはコロナ禍がひとまずは収まり,とうか収まったことにして,通常の生活に戻っているようです.時間があればロンドンの様子を撮影してYouTubeに公開しますね.
さて,実は今から数時間後に,科学者,政策学者,経営者,投資家たちとのパネルディスカッションに,僕はモデレーターとして登壇することになっています.
STEAM NEWS購読者の皆様の中にもパネルディスカッションのモデレーターをされる機会のあるかた,パネリストとして登壇する機会のあるかた,あるいはパネルディスカッションを聞きに行ったことがあるけれど「もやもや」だけが残ったという方もいらっしゃるかもしれません.
パネルディスカッションてよく開かれる割に,聞くのも,登壇するのも,回すのも難しいんですよね.
微力も微力ながら,僕も「情報の建築」を考え続けているひとりの研究者なので,この号ではパネルディスカッションの「回し方」について,浅学ながらお話ししてみたいと思います.
そして,最後に以前僕がブログに書いた「大学1年生に知ってほしい『議論』『討論』『談論』の違い」を本記事で改めて紹介します.
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《目次》
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中原淳先生提案「パネルディスカッションのトホホ文法」
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議論・討論・談論の違い
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今週の書籍
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今週のTEDxトーク
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Q&A
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一伍一什のはなし

中原淳先生提案「パネルディスカッションのトホホ文法」
立教大学経営学部の中原淳先生が「パネルディスカッションの5つのトホホ文法: 尻切れトンボ,みんな違ってみんないい,オレオレ質疑,過剰プロレス,リンダ困っちゃう!?」というブログ記事を書かれていました.
皆さんが最後に聞かれたパネルディスカッションはどんなものでしたでしょうか? 思い出せない? つまらなかった? もしそうであれば,そのパネルディスカッションは次の「文法」にのっとっていたかもしれません.
A.「1. 聞く 2. 聞く 3. 聞く 4. 時間がなくなって,尻切れトンボで,帰る」型.
B.「1. 観点 2. 観点 3. 観点 4. みんな違ってみんないい」型.
C.「1. 発表 2.(会場から)あさって質疑 3. 発表 4.(会場から)オレオレ質疑」型.
D.「1. やらせ 2. やらせ 3. やらせ 4. やらせ 5. 過剰プロレスで白ける」型.
E.「1. 発表 2. 発表 3.(会場へ)質疑 4. シーン 5. もうどうにも止まらない御大」型
中原先生のブログには具体例が挙げられているのですが,型名だけでもだいぶ想像がつきますよね.
A型
A型の「1. 聞く 2. 聞く 3. 聞く 4. 時間がなくなって,尻切れトンボで,帰る」型は,パネリストが順番に自分の発表をしたところで時間切れというパターン.これ,個別発表とパネルディスカッションを組み合わせた会議でよく見るやつですね.時間の都合で個別発表の時間を割り当てられなかったセンセイたちを無理矢理パネルディスカッションに押し込んだところ,センセイたちがここぞとばかりに発表してしまうパターンです.
ディスカッションどこやねーん,というやつです.
モデレーターが準備できる処方箋はタイマーでしょう.モデレーターがステージ上で時計を見ると,聴講者もつられて自分の時計を見てしまうので,ステージ下にタイマーを置いておくのが良いですね.
聴講者にできる対策はほぼありません.諦めてください.
B型
B型の「1. 観点 2. 観点 3. 観点 4. みんな違ってみんないい」型は,中原先生のブログから引用すると「パネルディスカッションと称して,異なる観点・学問領域・立場の登壇者の意見発表が続くが,その後で,みんなで話し合うべきイシュー(問題)が『ない』ために(あるいは設定されていない)最後は『みんな違ってみんないい』というオチになってしまう」パターンです.
これは,パネルディスカッションの時間を設定はしたものの,主催者が十分な問題設定をしなかったために,どんどん論点がずれて行ってしまうケースですね.こちらもディスカッションどこやねーんというやつですね.
こちらも聴講者にできる対策はほぼありませんが,ひとつぐらいはおもしろい観点が見つかるかもしれません.
C型
C型の「1. 発表 2.(会場から)あさって質疑 3. 発表 4.(会場から)オレオレ質疑」型は,モデレーターが「会場からご質問があればどうぞ」とマイクを回すと,会場に来ていた聴講者から意味不明な「なんちゃって質疑」や,自身の意見を開陳するだけの「オレオレ質疑」が出されるパターンです.
聴講者を絞っていない公開型のパネルディスカッションだと「ここで一旗揚げてやろう」「登壇者に一太刀浴びせてやろう」という聴講者が入ってくることは避けられません.
こればっかりは,マイクを回さないとか,マイクのスイッチを切るとかしか手段がないので,モデレーターは音響さんと合図を決めておいたほうが良いかもしれません.
不幸にも出くわしてしまった聴講者にできることは…「ヤジ」ぐらいでしょうか.いや,ここはもうハズレを引いてしまったと諦めて,そっと会場を出た方が良いかもしれません.
D型
D型の「1. やらせ 2. やらせ 3. やらせ 4. やらせ 5. 過剰プロレスで白ける」型は,中原先生によると本来の「やらせ」ではなく,パネリストの「悪ふざけ」に近いもので,パネリストがわざと他のパネリストに喧嘩をふっかけるものです.
関西出身の方は身にしみていると思いますが,ステージ上での「いじり」には愛情,信頼,そして高度なツッコミ能力が伴っていないと見るに堪えません.
「芸人にできるんだからオレにもできるだろう」と芸人をバカにするセンセイがやりがちなのですが,事故に直結するのでやめていただきたいものです.
ただし,中原先生のブログには書かれていませんが,パネリスト同士が笑顔で足を蹴り合うこともあるので,そんなシーンにもし出会ったら儲けものと思って是非パネルディスカッションを楽しんでください.
「さすが○○先生は世界を股にかけてはるだけあって,視点がユニークですなあ(ええ加減学内業務せえやヴォケ)」
「いやあ□□先生こそ地に足を付けた研究をしておられて,視点の深さが違いますな(井の中の蛙と気付やアフォ)」
なんて微笑ましい対話もたまにはあるらしいです.し,知らんけど.
E型
E型の「1. 発表 2. 発表 3.(会場へ)質疑 4. シーン 5. もうどうにも止まらない御大」型は,モデレーターが会場へ「質問のある方はいらっしゃいませんか?」と振っても質問が出なかった場合にありがちなパターンです.こんなとき,モデレーターが「おや,会場に▲▲学の権威,××先生がおられるではありませんか!是非お一言!」という振りをしてしまうのです.もちろん無茶振りされた大先生のほうも,一瞬迷惑なふりはしますが,ここぞとばかりに自説を語り始めます.
モデレーターも話を振った以上止められない,無茶振りされた大先生も「この場を救ってやる」という正義感に火がついてしまって止まらないという一種の場外乱闘状態です.
だいたい偉いセンセイというのは話が長いと相場が決まっているのです.いいですか,僕は在日バングラデシュ大使の独演を3時間にわたって聞いたことがあるんですよ.もちろんベンガル語です.絶対日記を読んでるだろと思っていたら,本当に日記を読んでいました.
話が逸れました.
中原先生は,同ブログ次のように締めくくっています.
この背景には,下記のような問題がありそうですね.(1)タイムマネジメントの難しさ(2)イシューの設定をきちんと行うことの準備不足(3)場をオープンにしたときの統制不能さ(4)演技を行うことの難しさ(5)静止することの難しさなどから,パネルディスカッションという形式は,なかなか場全体として,うまく理解を促進することが難しいのだと思います.
いやあ,胃が痛くなってきました.
ともかく頑張ってきます.
議論・討論・談論の違い
最後に,日常生活で意識しておくと便利な「議論」「討論」「談論」の違いをご紹介しておきます.
議論
議論とは,意見Aを持つものと意見Bを持つものが話し合い,議決を決めることです.議決は意見Aかもしれませんし,意見Bかもしれませんし,第三の意見Cかもしれません.議決は共同声明であったり,覚書であったり,何らかの形で未来へ残します.話し合いに参加したものは,議決に従うことを期待されます.
討論
討論とは,意見Aを持つものと意見Bを持つものが話し合う様子を第三者が観察し,そのどちらの意見に同意するか(あるいはいずれにも同意しないか)を判断するものです.第三者による判定は議決とは異なります.紙上討論,TV討論などもこの範疇に入ります.ディベートは討論の一種で,意見の内容ではなく説得力の強弱に力点を起きます.
談論
談論とは,議決を出さない議論のことです.たとえば問題Xがあり,その解決方法としてAを支持するものとBを支持するものがおり,両者とも解決には相手の協力が必要なとき,議論すなわち議決が必要です.談論している場合ではありません.(ただし問題Xを解決する必要がない場合は談論で構いません.)
パネルディスカッションも議決を求める「議論」なのか,第三者に判定してもらう「討論」なのか,単なる話題提供の「談論」なのか決めないで運用しているケースが多いのでしょうね.
今週の書籍
「議論」を知ることは ―― あなた自身を知ることだ.議論にも,スポーツと同様にルールがある.本書を読めば,国会中継,テレビ討論,ニュース番組を見る目が一変.友人との会話も,会社の会議も,自由自在にコントロールできる.嚙み合わない不毛な議論にオサラバを! ロングセラーの旧版に新たな図版・事例を付して,大幅な加筆を施した決定版.
日本の初等教育ではどうしても「議論」のルールが遅れがちになるのですが,それでも日本語でこうした「ルール」を読めるのは幸運な状況です.
高校生の時に読んでおきたかった本でした.
今週のTEDxトーク
TEDxNewYorkで新しいアイデアのトークが続いた一日の最後に,抱腹絶倒のトークで,ウィル・スティーブンは,どんなトークでも内容深そうにする話し方のテクニックを,面白くおかしく語ります.(TEDトークを数多く見て来たTEDスタッフよりお送りします.)
ひたすらおもしろいのですが,一片の真実も含まれているかも…と思わせるトークです.
Q&A
匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.
今週はこちらの質問から.
学生に「板書を写メ」された講師・教授などに質問です.スマホ向けられた時の気持ちはどのような感じでしょうか?
大学一年生向けの講義では,最初の方にノートテイキングの方法を教えることにしています.コーネル大学式とか,ビルゲイツ式とかの例を映して,状況や自分に合った方法を探すように伝えます.
もちろん,その画像を撮影する学生もいます.
「お,おう」と思います.
このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.
一伍一什のはなし
いろいろスケジュールが破綻してしまっています.関係者の皆様,本当に申し訳ないです…できるだけ早くメール返信してまいります.
どんなときも朝ご飯を抜かさない僕がですね,朝ご飯を抜くぐらいなら1限目に遅刻しろと厳しく指導しているこの僕がですね,水と「アリナミンA」錠で午前中を乗り切っている異常事態なので,いま少しお待ち頂きたく…
今週末に長崎へ戻りますので,温泉で復活しようと思っています.ああ,早く温泉に浸かりたい…
🍓
今週も最後までお読みいただきありがとうございます.メールでお読み頂いた皆様は,よろしければボタンを押して行ってくださいませ.(ボタンは匿名化されています.集計したデータはこのニュースレターの内容改善以外には用いません.)
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では,また来週,お目にかかりましょう.
ニュースレター「STEAM NEWS」
金谷一朗(いち)
TEDxSaikaiファウンダー・パイナップルコンピューター代表・長崎大学情報データ科学部教授
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