【第22号】ピラミッドのレントゲン写真?

エジプトの大ピラミッドの透視から「服が透けて見えるメガネ」の可能性まで
金谷一朗(いち)
2021.05.14
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このレターには音声版があります

いちです,おはようございます.

今週は物理学界きってのモテ男,ヨーロッパの光源氏,ノーベル賞物理学者エルヴィン・シュレーディンガーをご紹介する予定でした.しかし,ふたつの理由で後回しにさせていただこうと思います.理由その一は,シュレーディンガーの功績をお話するために「X線」についてお話する必要があること.そしてもう一つの理由が,次にご紹介する動画です.

先週,我々エジプト調査隊のリーダーでエジプト考古学者の河江肖剰(かわえゆきのり)先生がYouTubeで「大ピラミッドを透視する」話をされていました.名古屋大学の森島邦博先生が率いる研究チームが宇宙からやってくる「ミュー粒子」を使って,ギザの大ピラミッドの内部を透視して,未知の空洞を見つけたという話です.

そこで,今号では「透視」というメカニズムと,ピラミッドを透視してしまう「ミュー粒子」についてお話しようと思います.ミュー粒子は「ミューオン」と言ったり「μ粒子」あるいは単に「μ」と書くこともあります.この稿ではミュー粒子で統一しておきます.

あと,最後に中学生男子なら一度は妄想したことがある「服が透けて見えるメガネ」は可能かどうか,物理的な考察をしてみます.

レントゲンとX線

1901年,第1回ノーベル物理学賞はドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲンに授与されました.彼は1895年に「X線」を発見したのです.X線の「X」は「未知」を表す数学記号で,レントゲンは「未知の放射線」という意味で「X線」と名付けたのでした.

クルックス管の例, Kkmurray, CC BY-SA 3.0
クルックス管の例, Kkmurray, CC BY-SA 3.0

19世紀の物理学者が研究に用いた装置に「クルックス管」という真空のガラス管があります.このガラス管は陽極(アノード)と陰極(カソード)というふたつの電極が取り付けられており,陽極にプラス,陰極にマイナスの電源端子を取り付けると,真空中を「何か」が流れるというものです.この「何か」はどうも陰極から飛び出して陽極に吸い込まれていくようなので,ひとまず「陰極線(カソードレイ)」と呼ばれました.

陰極線はクルックス管の中に残った僅かなガスを発光させたり,クルックス管に内側からぶつかってガラス面を発光させたりします.この性質を詳しく調べて,クルックス管内部にわざとガスを注入して光らせるようにしたのが夜の街でおなじみの「ネオン管」です.また,陰極線(カソードレイ)をあえてガラス面にぶつけて発光させるようにしたのが「陰極線管」または「カソードレイチューブ(CRT)」です.CRTはその発明者カール・フェルディナント・ブラウンの名前をとって「ブラウン管」とも呼びます.CRTではガラス面の内側に「蛍光物質」という,陰極線を当てると光を発する粉を塗って,光をより見やすくすることが行われていました.薄くなる前のTVはCRTを使っていました.そう言えばTVて,本体も薄くなりましたが内容も薄くなりましたね.

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