【第20号】考古学と「ムーアの法則」の意外な関係

コンピュータの開発速度を示す「ムーアの法則」のほんとうの意味
金谷一朗(いち)
2021.04.30
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このレターには音声版があります

いちです,おはようございます.

皆さんは「ムーアの法則」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?

ムーアの法則は「集積回路」のトランジスタ数が2年毎に2倍になるというものです.集積回路は今の言葉で言えば「チップ」つまりコンピュータの頭脳ですね.頭脳を構成する細胞がトランジスタというわけで,コンピュータの場合頭脳が2年ごとに2倍の大きさになっていくということです.

トランジスタ数が2年で2倍ですから,1年で1倍? いえいえ,1年ではおよそ1.4倍です.そうすると2年では1.4倍の1.4倍で,およそ2倍となります.ぜひ電卓で試してみて下さい.

ムーアの法則はしばしば「X年でY倍」のXとYが違った形,例えば「1.5年で2倍」のような形で使われることがありますし,提唱者のゴードン・ムーアも1965年には「1年で2倍」と唱えていました.また,ビル・ゲイツは新著 “How to avoid a climate disaster” の中で「1.5年で2倍」と引用しています.このXとYは異なっても,本質的には同じことなので,細かいことは気にしないことにしましょう.

コンピュータのチップに関しては,ムーアの法則はどうやら正しいようです.と言っても,ムーアの法則の対象は人間が作り出すテクノロジーですから,いつも絶対に正しいというわけではありません.そもそも我々は「法則」という言葉を何にでも使いがちなのですが,それがどのぐらい普遍性を持つかという点には気をつけなければなりません.

例えば「万有引力の法則」はおそらく宇宙全体で成り立っています.しかし,経済学で言われる「一物一価の法則」すなわち「同じ市場,同じ時点,同じ商品ならば同じ価格である」という法則は成立していないこともあります.後ほど紹介する「マーフィーの法則」に至っては「信じたほうが生きるのが楽になる」という態度を表したものです.

しかし,ムーアの法則に使われる数学に厳密に従っている物理現象があります.そして,それこそが,考古学者の最も強力な武器でもあるのです.

カーボン・フォーティーン

地球上には「カーボン・フォーティーン」または略して「C14」という物質があります.

何のとこでしょう?

C14は「炭素」の一種です.炭素にはいくつも種類があり,石炭もダイヤモンドも炭素なのですが,ここで言いたいのは,C14が炭素の「同位体(アイソトープ)」であるということです.同位体とは,化学的性質が全く同じなのに,重さが違うものです.C14に対して,地球上に最もありふれた「普通の」炭素のことをC12と呼びます.

そんな物質が他にもあります.本誌【第19号】では「水素」を取り上げました.普通の水素に比べて,2倍の重さを持つデューテリウム,3倍の重さを持つトリチウムという同位体があります.水素の同位体について,10分程度で要約をお伝えする動画を撮りましたので,よろしければご覧になってくださいね.(チャンネル登録,高評価もして頂けると嬉しいです.)

動画の中では同位体という言葉を使っていませんが,トリチウムは普通の水素の同位体です.しかも放射能を持っているので「放射性同位体(ラジオアイソトープ)」と呼びます.普通の水素のほうは別名をプロトニウムと呼びます.欧米の科学者は学名にラテン語風やときにギリシア語風を好むので,このような呼び方になりました.

なお,名称がややこしいですが石炭とダイヤモンドはお互い「同素体(アロトロープ)」と呼びます.

話をC14に戻します.C14は放射線を出す能力を持つ放射性物質です.

原子は大変小さく軽いので,重さ(質量)を測るのに「グラム(g)」ではなく「ダルトン(Da)」という単位を使います.1ダルトンはおおよそ

1Da = 0.000,000,000,000,000,000,000,001,661g

です.大雑把に言うと,プロトニウムが1ダルトン,トリチウムが3ダルトンの重さを持ちます.そして,地球上に最も多い炭素であるC12は12ダルトンの重さを持ち,いま話題のC14は14ダルトンの重さを持ちます.

C14の発見は意外と新しく,1940年にアメリカの化学者マーティン・ケイメンと,同じくアメリカの化学者で同僚のサム・ルーベンによって発見されました.発見からまだ100年と経っていないのですね.

C14はおよそ5,730年でその半分が放射線を放出し,安定した窒素へと変化します.放射するのはトリチウムの場合と同じくベータ線つまりは電子なので,通常の環境であれば被爆の心配は必要ありません.

この「5,730年で半分になる」という性質は何かと似ていませんか?

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