【第16号】満潮と干潮はどうしておこるの?

潮の満ち引きの原因は「月と地球」が踊るように宇宙を駆け巡ること
金谷一朗(いち)
2021.04.02
読者限定

いちです,おはようございます.

ついに!やっと!スエズ運河を塞いでいたコンテナ船「エバーギブン」が離礁に成功し,運河の航行が再開しましたね.エバーギブン号の座礁から7日目のことでした.スエズ運河から年間50億米ドル以上の収入を得ているエジプト政府もようやく胸をなでおろしたことでしょう.エジプトの2020年度の国家予算の歳入が1兆3,000億エジプトポンドほど(およそ830億米ドル)とのことですから,スエズ運河は同国にとって生命線でしょう.

エバーギブン号は3月28日の「大潮(おおしお)」を利用して,ようやく離礁できたようです.実はこの「大潮」という現象は地球規模の現象なので,僕の住む長崎でも観測できました.今週は,大潮を含めた潮(しお)の満ち引きについてお話したいと思います.

2021年3月28日の長崎,筆者撮影
2021年3月28日の長崎,筆者撮影

潮の満ち引きとは何?

海の沿岸分に住んでいないと,潮の満ち引きを意識することはそれほどないと思います.そのせいか,昔から海辺にキャンプ用ベッドを出して寝ているうちに取り残されてしまう人がいます.僕の先輩もやらかしました.

海面は1日のあいだに1回から2回,ゆっくりと上下しています.これを潮汐(ちょうせき)と呼びます.さんずい偏に朝と夕ですね.もともとは朝方の海面の変化を潮,夕方の海面の変化を汐と書いたそうです.他に低気圧によって海面が上昇することもあるのですが,こちらは「高潮(たかしお)」と呼んで区別します.今週のお話は,低気圧とは関係ない潮汐のほうです.

潮汐によって海面がどのぐらい上下するかと言うと,これは地域やタイミングによるのですが,世界最大となる場所では15メートルにもなるそうです.日本最大となるのは有明海で,5.6メートルとなる場所があるようです.

冒頭の写真と同じ場所を干潮時に撮影したもの,筆者撮影
冒頭の写真と同じ場所を干潮時に撮影したもの,筆者撮影

さて,この潮の満ち引きがどのようにして起こっているかご存知でしょうか?

僕は子供の頃,NHKの番組で大学の教授が

「月の引力によって海の水が引き寄せられているため」

と説明されているのを見て,単純に信じていました.これは日本だけでなく,世界的な「勘違い」のようです.というのも,これが誤解だと知ったのは,大学生になってから「ファインマン物理学」という教科書を読んだときだったからです.細かい内容は忘れてしまいましたが,確か「月が海水を引っ張っていると誤解しないように」のような意味のことが書かれていました.

「ファインマン物理学」はアメリカのノーベル賞物理学者リチャード・ファインマンがカリフォルニア工科大学(カルテック)の1年生向けに行った物理学の講義をまとめたものです.学生の頃,なんてわかりやすい教科書なんだろうと思って夢中になって読んだのですが,いま思い返すとちょっと複雑な気分にもなります.世界最高の頭脳でさえ,新入生(英語ではフレッシャー)相手に講義をするのだなと.まあ世界最高のプロダクトデザイナーであるジョナサン・アイブだって,スティーブ・ジョブスの出張のお世話をしていたわけですから,どこの世界も同じということでしょう.

さて,ファインマン先生による潮の満ち引きの説明に戻りましょう.彼の説明を一言で言えば「月が巨大すぎるから」となります.

え?

月のように,惑星のまわりを回る天体を「衛星」と呼ぶのはご存知のとおりです.水星を除けば,太陽系の惑星は全て衛星を持っています.

問題はサイズなのです.

直径を比べると,月は地球の1/4のサイズを持ちます.月はあまりにも大きいのです.重さ,いえ,正しくは質量を比べると,月は地球のおよそ1/80ほどです.太陽系の他の惑星だと,抱えている衛星の質量は大きくとも1万分の3前後までです. これは太陽系外でもだいたい当てはまるだろうと考えられています.少なくとも直径が1/4になるような巨大な衛星を持つ惑星は銀河系広しと言えどもそうそうは無いだろうと考えられています.

もしあなたが宇宙で迷子になったら,巨大衛星を持った惑星を探すと良いでしょう.それが地球です…というようなお話がアイザック・アシモフのSF小説「ファウンデーション」シリーズの後半に出てきます.

このような巨大な衛星を抱えた惑星は,特異な動きをすることになるのです.衛星(月)は惑星(地球)の周りを「公転」します.普通に考えれば,衛星の公転の中心と惑星の中心は一致します.事実,地球以外の惑星ではそうなっています.しかし!地球は例外なのです.そう,巨大な月のせいで.

月があまりにも巨大なせいで,月自身は地球の重心を中心に公転できません.その代わり,地球と月は「共通重心」を中心に「踊るように」公転しています.「地球・月」の共通重心は,地球中心から4,600キロメートルほどずれています.地球の半径がおよそ6,400キロメートルですから,大袈裟に言うと,地球は地表面を中心に回転しているようなものですね.

このため,地球は月と一緒に「ぶん回されて」いる状態になっています.水の入ったバケツを「ぶん回す」と,バケツの中の水は遠心力を感じます.つまり,水はバケツに張り付いてしまいます.これと「ほぼ」同じ現象が,地球の海水にも起こっているのです.なぜ「ほぼ」なのかはこの号の「少しの修正」のところで短くお話します.

このように月が地球に比べて十分大きいので,月を地球の「衛星」とするのではなく,地球と月を太陽の「二重惑星(ダブルプラネット)」とする説もあります.二重惑星といえばSFアニメ「宇宙戦艦ヤマト」で有名ですが,なんと我々が住む星もまた,見方によっては二重惑星だったんですね.

大潮・小潮

干満の差は日によって大きくなったり小さくなったりします.干満の差が最大になる日を大潮(おおしお),最小になる日を小潮(こしお)と言います.スエズ運河のエバーギブン号は,大潮の日の満潮を利用して離礁しました.この大潮,小潮が起こる理由ですが,これは太陽のせいなのです.

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