縁起の良い数字・悪い数字【第49号】

様々な理由で好まれる数字と嫌われる数字たち
金谷一朗(いち) 2021.11.12
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【140字まとめ】今週は【第49号】なので縁起の良い数字と悪い数字についてお話しします.49は,太田蜀山人先生によると「七福神に餅を7個ずつ配ると49個」になりますから大変めでたい数なのですが,一般的には忌数(いみかず)として知られています.他に13,666なんかの話題もお伝えします.

いちです,おはようございます.

お陰様でこのニュースレターも第49号を迎える事になりました.太田蜀山人先生も言われている通り,49と言えば七福神に餅を7個ずつ配った数ですから,大変におめでたい数字なのです…というお話を以前YouTubeでしてみました.

とは言え,49と言えば一般的には「縁起の悪い」数字ですよね.このような数字を「忌数(いみかず)」と言います.江戸時代までは49(始終苦)が大変に忌まれた数字だったそうですが,現代ですと42(死に)のほうが嫌われ者かもしれません.背番号「42」を背負う日本人プロ野球選手も,2021年シーズンの現役ではスワローズの坂口智隆選手だけではないでしょうか.見落としがありましたら,是非コメントくださいませ.

このような忌数は世界中にあります.有名なものは,西洋文化圏における「13」や「666」でしょうが,珍しいところでは17,23を忌む文化もあります.

パン屋の1ダース(13)

イギリス英語には「パン屋の1ダース」という言葉があります.1ダースは通常12個を表すのですが,パン屋に限っては13個を表すという意味です.1260年代にイギリスで公布された「パンとビールの公定価格法 (Assize of Bread and Ale)」は,パンの目方を誤魔化したパン屋に重い罰を与える法律でした.伝承によれば,罰を恐れたパン屋が,パンを12個買った客に対して1個「おまけ」をつけたのが始まりなんだそうです.なお日本でも「パン1斤」は「日本パン公正取引協議会」によって「340グラム以上」と定められています(*).

(*日本の度量衡法によって1斤は正確に600グラムと定められていますが,パンに限っては景品表示法に基づいて「日本パン公正取引協議会」が定めたルールが適用されています.)

Photo by <a href="https://unsplash.com/@blsnki?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Yeh Xintong</a> on <a href="https://unsplash.com/s/photos/bread?utm_source=unsplash&utm_medium=referral&utm_content=creditCopyText">Unsplash</a>

Photo by Yeh Xintong on Unsplash

1ダースつまり12というのは使い勝手のいい数字で,古代バビロニア,古代エジプトに始まり,フランス革命前後まで,あるいはそれ以降もヨーロッパでは単位として根強く使われてきた数字です.12なら2人でも3人でも4人でも分けられるから,というのが主な理由なのでしょうね.例えば1日をデイ(day)とナイト(night)に分けてそれぞれ12分割したり,1971年まではイギリスの通貨1シリングが12ペンスと定められていたりと言ったところに,その影響を見ることができます.

ところが,1ダースにひとつ加えた13となると,途端に使い勝手が悪くなります.なにせ13は「素数」なのです.13は1と13でしか割り切れません.半分にすることすら出来ないのです.ここら辺が,13が嫌われる理由になったのではないかと,作家のアイザック・アシモフは見当をつけていました.この説は「非調和な数」説と呼ばれています.

また,北欧神話では,12人の神々が祝宴を開いていた際に,13人目として「ロキ」という神が乱入して後の「ラグナロク」つまり世界の終末を引き起こしてしまったことから,13が嫌われるようになったとする説もあります.キリスト教もまた,日本の仏教と同じように土着の宗教を取り込んでいったので,北欧神話由来の忌数13が根付いていったものと考えても不自然ではありません.

なお,誰もが一度は耳にしたことがある「イエス・キリストは13日の金曜日に処刑された」というのは俗説で,広く信じられた理由にホラー映画「13日の金曜日」シリーズの影響を上げる研究者がいます.この映画については,僕個人の感想を言えば散々なものでしたが,とはいえひとつの文化を定着させたという意味ではある種映画の到達点と呼んでも良いのかなという感想を持ちます.

獣の数字(666)

英語には「ヘクサコシオイ・ヘクセコンタ・ヘクサフォビア」という単語があります.日本語にすると「666恐怖症」です.新約聖書の「ヨハネの黙示録」に「獣の数字」として書かれているため,666を忌み嫌う習慣がキリスト教圏にはあります.ヨハネの黙示録には「ここに知恵が必要である.賢い人は,獣の数字にどのような意味があるかを考えるがよい.数字は人間を指している.そして,数字は六百六十六である」(13章18節)と書かれているのです.広く普及している英訳は次のようなものです.

Here is wisdom. Let him that hath understanding count the number of the beast: for it is the number of a man; and his number is six hundred and sixty-six.

ただし,聖書にいつ666が書かれたのか,またどのような理由で666が書かれたのかは,正確なことがわかっていません.エジプト中部の「オクシリンコス(Oxyrhynchus)」で見つかった「オクシリンコス・パピルス」のひとつが,ヨハネの黙示録のおよそ1,700年前の写本であることがわかっています.このパピルスでは獣の数を「616」(ギリシア語でヘクサコシオイ・デカ・ヘクス)としています.

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  • 「ヘプタデカフォビア」と「23エニグマ」
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