【第17号】ゼロから文明を作り出せ!

この世界が消えたあとの「長崎ちゃんぽん」の作り方
金谷一朗(いち)
2021.04.09
読者限定

このレターには音声版があります

いちです,おはようございます.

新年度が始まりました.僕の勤める長崎大学にも日本中から新入生が集まっています.外国からの入学生がキャンパスに足を運ぶのはもう少し先になりそうですが,おいおい集まってくるでしょう.

昨年,オンライン受験相談に来た高校生から「なぜ長崎ちゃんぽんは美味いんですか?」と聞かれました.

「ちゃんぽん」美味しいですよね.この「なぜ長崎ちゃんぽんは美味いのか」というのは,とても深い質問なのです.今週は長崎ちゃんぽんに使われる「ちゃんぽん麺」の秘密を通して,日本に国があるという奇跡,そして,この世界が消えたあと文明を取り戻す方法を共有したいと思います.

特異な国「日本」

日本は世界的に見ると極めて特異な国土を持っています.日本の特異性をいくつか並べてみましょう.

  • 世界の大地震の1割から2割が日本で起こっている(世界トップです)
  • 毎年平均して10個以上の台風が日本に近接ないし上陸している(こちらも世界トップです)
  • 毎年平均して1ヶ月半の雨季がある(世界有数です)
  • 世界一危険と言われている火山もある火山大国である(マンチェスター大学の2015年のランキングでは1位に硫黄島,4位に阿蘇山が入っています)
  • 日本の一部は世界有数の豪雪地帯である(人の居住地としては世界最大です)
  • 森林国で,工業に不利である(日本は世界トップクラスの森林国です)

ここまでで泣きそうになりますが,これでまだ資源があれば救いです.ところが

  • 岩塩が産出せず,年間降水量が多いところに砂丘海岸が少ないため塩田も作りづらい
  • 鉄鉱石が取れない
  • 金鉱石も乏しい
  • 石油もウラン鉱石も取れない

と踏んだり蹴ったりです.では農業に適した国土かと言えば

  • 表土の窒素成分が残っていない
  • 利用可能な真水が少なく,また国土の半分は寒冷で,平地も少ないため,コメの育成に適さない

と,なかなかの「無理ゲー」ぶりです.表土の窒素成分というのは農地の養分のことで,エジプト以外の国は似たりよったりなのですが,最後の「コメの育成に適さない」は意外に思われるかもしれません.日本は降水量こそ世界平均の2倍ほどありますが,水を溜め込む地形に乏しく,利用可能な真水は少ないのです.また,コメは本来南国の作物で,必ずしも日本の気候に適していたわけではありません.

もうここまで来ると,狩猟や酪農しか生きる道は残っていなさそうなのですが,歴史上の日本人たちはその道を選ばず,ひとつひとつ困難を克服していきました.特に「水田」によってコメを育て,「たたら製鉄」によって砂鉄から鉄器を作り,少量の金でも薄く伸ばす技術を磨いて美術品を「金ぴか」にすることさえ可能にしました.日本の職人は,和紙を使って金を1万分の1ミリメートルまで薄く伸ばすことが出来たようです.[参考文献1]

そんな日本人が手に入れられなかったものがあります.

石鹸は紀元前3000年頃に発明されたと言われていますが,日本で最初に石鹸が作られたのは1824年(19世紀,江戸時代後期)で,普及したのは20世紀からです.世界的には18世紀末から石鹸が普及しているので,1世紀ほど出遅れています.

ガラスの製法は紀元前2000年頃にエジプトで見つかったと考えられています.紀元前1世紀後半には,アレクサンドリアで「吹きガラス」も発明されています.日本では弥生時代から天然ガラスを使った宝飾品が作られていましたが,平安時代には一旦廃れます.その後ガラスが生活の場に入ってくることはなく,日本人がガラス製の「器」を手にしたのは1549年のフランシスコ・ザビエル来日まで待たねばなりません.

日本でのガラス製造はその後の江戸時代を通じて花開いていきますが,透明度の低いガラスしか作れませんでした.現在手にしているような透明度の高いガラス(ソーダ石灰ガラス)が日本でも生産可能になったのは大正時代からです.

日本の「ラーメン」の原型は江戸時代末期に外国から持ち込まれたものだと言われています.日本式ラーメンとも言われる現代の形のラーメンとなると1910年(明治43年)の横浜中華街の「来々軒」が売り出して以降と言いますから,ようやく100年経ったところです.新横浜ラーメン博物館のブログによると,室町時代にラーメンが提供された記録があるようですが,定着はしなかったようですね.

中国では「日式拉麺」と呼ばれている現代のラーメンは,中国のオリジナルとは似ても似つかないようですから,オリジナルの方を「中華麺」と仮に呼ぶことにしておきましょう.そう言えば,僕が20代のときに住んだことのある和歌山ではラーメンよりも「中華そば」という呼び方のほうが一般的でした.僕の中国人師匠から真顔で「ラーメンと中華そばはどう違うのですか?」と聞かれたことを思い出します.もちろん,同じものでした.

さて,石鹸,ガラス,中華麺の共通点は何でしょうか.

ここから先は限定公開です

下記からメールアドレスを入力するだけで続きを読むことができます。

すでに購読された方はこちら

ログインする