仕事を片付けろ:Getting Things Done【第146号】
2️⃣ひとつめ:時間割を切ること
3️⃣ふたつめ:明日できることは今日しないこと
※メールでお送りした記事では一部「見出し」が抜けておりました.訂正版を掲載いたします.
いちです,おはようございます.
昨夜,阪神タイガースが優勝(アレ)しました.わーい.

虎テレ
この原稿は甲子園球場の阪神巨人戦を見ながら書いていました.ところどころおかしなところがあるかと思いますが,タイガースファンの特殊事情ということでお許しいただければ幸いです.まだ「クライマックスシリーズ」があるとは言え,18年ぶりのアレなもので……
さて,今週のテーマは「仕事を片付けろ」です.注意力「超」散漫な僕が,どうやって仕事を片付けているのか,いつもと趣向を変えて,簡単にご紹介させていただこうと思います.
1990年代の人気TV番組「料理の鉄人」をご記憶でしょうか? 料理人同士が決められた食材で対決する番組です.レギュラー料理人,つまり「鉄人」だった和食担当の道場六三郎さんは現在YouTuberとして活躍もされています.
僕は「最強の鉄人」とも呼ばれた道場六三郎さんから学んだことがひとつあるのです.彼は料理を始める前に,制限時間があるにもかかわらず,いつも「お品書き」を書き上げるのです.これは,あらゆる仕事の「コツ」かもしれません.
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仕事のやり方ってどこで習うのだろう?
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どんな方法も破綻はする
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GTDで出来ないこと
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今週の書籍
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今週のTEDトーク
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Q&A
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一伍一什のはなし
仕事のやり方ってどこで習うのだろう?
僕たちは「国語」「算数(数学)」「理科」「社会」「外国語」「体育」「道徳」などなど,小学校から習ってきています.僕はもっと「無人島での生き延び方」とか「値切って買う方法」とかも教わりたかったのですが,残念ながら学校では教わりませんでした.
もうひとつ,学校で教わりたかったことが「仕事のやり方」です.いや正確に言うと,半分は学校で習っているのですが,残り半分も教えてほしかったなあと思っています.
まず学校で習ったほうの「仕事のやり方」です.皆さんも絶対習っていますよ.
それは「時間割」を切ること.
社会人になると「1時間目」「2時間目」のような時間割が無くなってしまいますし,上司の割り込みや突然の会議もありますからなかなか維持するのは難しいですが,それでも「自分の時間割」を作っておくことは仕事を片付ける上で有効な方法です.
僕の場合はGoogleカレンダーに「STEAM NEWS執筆の時間」というのを,1.5時間のブロックに分割して,毎週8個ぐらいばらまいています.
さて,大学教員の仕事はアート業界に例えるとプロデューサー兼ディレクター兼パフォーマー兼マネージャーなので,もう少し粒度を上げる必要があります.いやほんと,大学での仕事は「研究」「教育」「社会貢献」と言いますが,研究は「研究計画」「資金調達」「研究遂行」「研究発表」とそれぞれのフェーズでやることがまるで違いますし,教育は講義や入試だけでなく,不登校学生の生活指導とか,警察のご厄介になっている学生の引き受けまであります.なんでそんなことまで大学教員にさせるんや……
ところで「ハッカー」(コンピューターおたく)たちは他の「人種」に比べて非常に高い生産性を誇ることから,ハッカー文化に学んで仕事効率を上げようという「ライフハック」という考え方が生まれました.ライフハックは,ハッカー以外の人々も応用可能で,それでいて生産性を向上できることから,根強い人気を誇る「生きる知恵」です.
……というのが「ライフハック」の一般的な導入なのですが,気になりますよね,なぜハッカーたちは高い生産性を維持できるのか.それはハッカーたちが「怠惰」で「短気」で「放漫」だからなんです.ハッカーは怠惰なので,いかに楽をするかをいつも考えます.またハッカーは短気なので,根性さえ出せば耐えられるタスクさえ回避する方法を考えます.そしてハッカーは放漫なので,自作の道具に品質を求めます.方眼紙に書き込まれた数値をひとつひとつ電卓で足していくよりもエクセルのマクロを書いて自動計算し,あまつさえそのマクロをネットで公開するのです.(*)
(*21世紀にもなって信じがたいことですが,大学によっては方眼紙に書き出された科目別の入試の点数を電卓で足し合わせます.しかもそれを3回繰り返すのです.その方眼紙はエクセルによって印刷されています.)
そんなライフハックのなかで,広く知られている仕事術が「Getting Things Done」です.翻訳すると「仕事を片付ける」になるのですが,通常は頭文字を取って「GTD」と呼ばれています.
GTDは仕事に取り掛かるときに,次のプロセスを経るようにします.
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収集する
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見極める
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整理する
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更新する
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実行する
仕事を実行するまでに,随分と段階があるように見えます.
社会人の仕事というものは,眼の前に食材があって,制限時間内に料理を作らないといけない「料理の鉄人」と似ています.いますぐ調理に取り掛かりたいところですが,僕たちは「最強の鉄人」道場六三郎さんの教えを知っています.そう「お品書き」ですよね.
GTDは料理に取り掛かる前の「お品書き」なのです.
具体的なプロセスを見ていきましょう.今後,片付けるべき仕事のひとつずつのステップを「タスク」と呼ぶことにします.またタスクのうち,具体的な行動によって処理できる部分を「アクション」と呼びます.
GTDは基本的に次のフローに従います.
各ステップを見ていきますね.
収集する
今すぐやらないといけないことから,時間があったらやってみたいことまで,何もかも書き出します.これらがタスクです.
どんな小さなことでもよいので,忘れる前に書いておきます.いや,忘れてしまっていることも思い出して書きます.1回目の書き出しは心の奥底から絞り出す感じになるので時間がかかりますが,2回目からは思いついた,あるいは思い出したその場でリストに追加していけば良いので,時間がかからなくなります.
僕のリストはいま400個から500個ほどになっています.
見極める
書き出されたリストを上から順番に見て行って,2分以内に完了しそうなタスクはすぐに取り掛かります.2分は一例なのですが,妥当なラインでしょう.僕としては1分26.4秒以内に片付けられるかどうかで判断したいところです.これが,僕が瞬発的に処理できる時間だからです.
完了したタスクはリストから消去します.それ以外のタスクは「整理」することになります.
整理する
この段階で残っているタスクはすべて処理前のタスクです.優先順位をつけたり,重要度をつけたり,難しいタスクはより小さなタスクに分割したりします.タスクのうち,実行に移せる粒度のものを「アクション」と呼びます.分割はタスクがアクションになるまで繰り返します.
このステップは,一応「標準」とされる方法がGTDの提唱者提唱者デビッド・アレン(David Allen)によって示されています.アレンの方法は正直に言うとあまり美しい方法ではなく,数学や芸術を愛好する人間から見ると「ちょっとどうなの」と思いがちな方法なのですが,僕自身は15年の実践を経て,アレンの方法をなぞったほうが巡り巡って美しいのではないかと感じています.
アレンの方法は「ストレスフリーの仕事術」ほか,多くのウェブサイトに掲載されています.簡単に言うと,1ステップで出来ないタスクは1ステップでできるアクションの集合に分割すること,タスクには「コンテキスト」(文脈)を割り当てることの2点です.コンテキストとは「いつするのか」「どこでするのか」「誰とするのか」「どの道具を使うのか」などですが,アレンはその「いずれか」を指定すれば十分としています.
タスクにコンテキストを与えることに凝り始めると,タスク管理が最大のタスクという本末転倒な状況になってしまうので,アレンの線引きは現実的な気がします.
更新する
「GTD」の提唱者デビッド・アレンは「暇さえあればタスクの更新をする」と言っていますが,最長でも1週間に1回,できれば1日2回リストを更新します.
実行する
タスクは実行しなければただの「絵」になってしまいます.「GTD」では,タスクリストのうち,現在のコンテキストにあったタスクにまず取り組めと言います.「今日」すべきこと,そして「この場所」ですべきこと,いま「会っている人」とすべきこと,あるいは「手元にある道具」ですべきことです.
こうすることで「いまやらなくても良いこと」を先送りできるのですね.トルコのことわざとも言われているのですが,僕の座右の銘でもある「明日できることを今日するな」を実践することにもなります.
どんな方法も破綻はする
僕は「GTD」というタスク管理方法を使い始めて,もう15年以上経ちます.それに似たものまで含めれば20年以上でしょうか.実際には,並行して研究にも「ガントチャート」をひいてみたりとか,いろいろ試してみてはいます.
これは僕個人の体験なので,参考にならないかもしれません.
それでも言います.
どんなタスク管理手法も,破綻します.
人間がやることです.どうしたって破綻します.
ただ「GTD」のような比較的「ゆるい」方法は,破綻からの復帰コストが少ないのです.書籍やウェブページで紹介されることはあまりないのですが,この破綻からの復帰を考えると「GTD」はかなり良いバランスを保っていると思います.
再び僕個人の例で恐縮ですが,精神的に追い込まれるとタスクリストを見るのも嫌になるのですよね.で,リストそのものを見なくなります.が,2週間ぐらいすると復活して,リストを見返す気力も生まれます.そんな状況でリストを再構築しないといけないとき「GTD」に沿って作っておいたリストだと,わりとゆるく再利用できるのですよね.
「仕事術」「タスク管理術」として多くのメソッドが紹介されている世の中ですが,僕が「GTD」いいんじゃないと思うのは,この「破綻からの復帰」が比較的楽なことにあります.
なおGTDには致命的な弱点もあります.
複数人で実施するプロジェクトに関しては「GTD」は無力です.
もちろん,うまくいったよという事例をウェブで見ることは多々ありますが,プロジェクトの管理とタスクの管理は別物です.
僕はこのことに気づくのに,たぶん10年以上をかけました.
プロジェクトの管理についても良書がたくさんあるのですが,いずれSTEAM NEWSでも取り上げたいと思います.
今週の書籍

うまくいく考え方でもやもやがスッキリ! 生産性に革命をもたらす,魔法の仕事術「GTD」 .発案者自らが,ストレス激減の秘策をわかりやすくアドバイス! 仕事や生活の雑事につねに追いかけられているような気分にみんなうんざりしている.これまで逃してきたチャンスを活かし,創造的な思考を楽しむ余裕を取り戻したい.そのための新しいアプローチが求められていたのだ.そのアプローチは,その日の調子に影響されず,どんな仕事をするときも,つねに使えるものでなくてはならない.それは行動を律する「枠組み」であるだろうが,各自の複雑なライフスタイルにぴたりと合ったものでなければならないし,しかも,生活を窮屈にするのではなく,生活を自由にしてくれるものでなくてはいけない.こうした要件を満たすのが,私が開発した手法,GTD(getting things done)なのだ.[初版紹介文]
初版は2001年と相当古い書籍なのですが,いま買えるのは2015年のバージョンで,アプリを使ったGTDの実践についても触れられています.GTDを実践するために作られたようなOmniFocusというアプリを想定しているようにも読めるのですが,どんなアプリでもウェブサービスでも試せるでしょう.
本書のエッセンスだけを紹介したウェブサイトを読むだけでも十分な気もしますが,一度は原点にあたっておくと良いと思います.
今週のTEDトーク

TED
ひどくて,非効率で,人で溢れかえる会議が世界のビジネスに疫病を広げています―そして働く人々を悲劇的な状況に追い込んでいます.デイビッド・グラディは,これを食い止める方法をいくつか知っています.
仕事の足を引っ張るものは「会議(Meeting)」と「上司(Manager)」の「M&M's」という笑えない冗談があります.このトークをみて,ちょっとした対処法を試してみてください.
Q&A
匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.
今週はこちらの質問から.
憧れの「火力」はありませんか?
武器ではないほうの「火力」ですが,登山で使っていたオーストリア製ストーブ「ホエーブス(Phoebus)No.725」は力強く,いまでも憧れの火力です.
燃料は「ホワイトガソリン」で,タンク容量はおよそ250ミリリットルです.火力調整用のつまみがついてはいるのですが,どの位置でも「超強火」で凄まじい燃焼音をたて,だいたい40分で燃料を燃やしきります.
今から考えるとかなり乱暴な「火力」なのですが,ひとりキャンプのときはこの音がたまらなく心強いのですよね.
このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.
一伍一什のはなし
阪神タイガースがリーグ優勝しました.18年ぶりです.
過去のタイガース優勝の日はいつも,TV中継を見ている同僚や学生の横で仕事をしていました.で,気分がそわそわするのか,大失敗をやらかしてきたのですよね.2003年の優勝の日には,研究のスポンサーになっていただいている大企業の社長秘書へ失礼メールを誤送信,かつ上司の教授を巻き添えにしていて,研究室でたったひとりどんよりと落ち込んでいました.
今年も失礼メールが届いた方がいらっしゃったらごめんなさい.
さて,学校で教わりたかった「無人島での生き延び方」とか「値切って買う方法」ですが,結局僕がいま学生たちに教えています.
長崎の世界遺産調査では無人島に行く機会もあるので,助けを呼ぶ方法や,雨露,乾きを防ぐ方法は教えておかねばなりません.
また海外研修や海外調査では,価格交渉文化の強い地域によく出かけます.若手時代は「大阪人だから」という理由だけで連れて行かれたこともあるのですが,いまは逆に研究室の若手に「外国語できへんかったら大阪弁でええねん,大阪弁で値切れ」と教えています.
……ああ,また脱線しちゃいました.
仕事の出来ない僕が仕事術を語るのはどうかと思ったのですが,まあこんな脱線ばっかりの僕でもどうにかなっているのは,仕事の前に「お品書き」を準備しているからですよというお話でした.
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では,また来週,お目にかかりましょう.
【謝辞】本ニュースレターは「STEAMボート」乗組員(STEAM NEWSサポートメンバー様)のご支援でお届けしております.乗組員の皆様に感謝申し上げます.
ニュースレター「STEAM NEWS」
金谷一朗(いち)
TEDxDejima Studioファウンダー・パイナップルコンピューター代表・長崎大学情報データ科学部教授
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Cover Photo by Marten Bjork on Unsplash
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