人類史上最高の科学者アイザック・ニュートン【第128号】

1️⃣ニュートンはリンゴも地球を引っ張ることを発見しました
2️⃣彼はマルチな天才でしたが,ちょっとややこしかったようです
3️⃣古代エジプトの長さの単位「キュビット」を解明したのもニュートンでした
金谷一朗(いち) 2023.05.05
誰でも

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いちです,おはようございます.

先週のTEDxDejima Liveにご参加頂いたみなさま,貴重なお時間をありがとうございました.今後TEDから編集済み動画が公開される予定ですので,またSTEAM NEWSでもピックアップしますね.

僕の好きな作家で,知の巨人アイザック・アシモフは「人類史上最高の科学者は誰か?」と聞かれて「もし人類史上2番めに偉大な科学者は誰かと問われたら答えに窮していただろう.しかし1番を答えるのは簡単だ.アイザック・ニュートンなのだからね」と答えたそうです.たしかにそうだなあと思う反面,同名ゆえの贔屓もあるかもしれません.僕だって人類史上最高の野球選手は誰かと聞かれたら鈴木一朗(イチロー)と答えます.生まれもプロデビューも,だいたい同じだったんですが,どこで差がついた……

さて,今週はそんなアイザック・ニュートンの話題をお届けします.

偉大なる物理学者として有名なニュートンですが,数学者としてはもちろんのこと,色彩学者として,政治家として,官僚としても優秀でした.また彼は株式の投資家でもあり,錬金術師でもありました.

日本語版ウィキペディアにも,英語版ウィキペディアにもまだ記載がないのですが,ニュートンはエジプト考古学にも貢献しています.ニュートンが葬られたウェストミンスター寺院には,彼とピラミッドのモニュメントが残されています.

ぼくも一応はウィキペディアンなので,このニュースレターの英語版を更新したら英語版ウィキペディアも更新しておきますね.

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《目次》

  • 科学への貢献

  • 闘うニュートン

  • エジプト考古学とニュートン

  • 今週の書籍

  • 今週のTEDトーク

  • Q&A

  • 一伍一什のはなし

科学への貢献

アイザック・ニュートンは書籍「面白すぎる天才科学者たち」が1章を割いて説明するぐらいアクの強い人だったようですが,まずは科学への貢献について述べていくのがフェアでしょう.

ニュートンは1642年12月25日生まれですが,これは当時イングランドで使われていたユリウス暦での日付です.現代のグレゴリオ暦に換算すると1643年1月4日生まれとなります.科学の父,ガリレオ・ガリレイが亡くなったのがグレゴリオ暦1642年1月8日ですから,ニュートンとガリレオの間には残念ながら接点がありませんでした.

ニュートンはグレゴリオ暦1661年にケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに入学していますから,18歳で入学ということになりますね.もちろん紆余曲折もあったのですが,まずは優秀な学生だったのでしょう.彼は大学で仕事をしながら学費を稼ぐサイザーという身分でした.

4年後の1665年にはカレッジを卒業しています.偉い.

そしてこの年,ロンドンに何度目かのペスト流行がやってきます.そのため大学が閉鎖され,ニュートンは実家へと帰ります.思索の時間を得た彼は,故郷ウールスソープ・バイ・カールスターワースで大発見をします.

そのひとつが「万有引力の法則」です.

言い伝えによると,ニュートンは目の前にリンゴが落ちてくるのを見て万有引力というアイディアをひらめいたのだとか.

この話に根拠はないのですが,その前に「そもそも万有引力とはなんぞや」というお話をしておきましょう.せっかくなのでリンゴにも登場してもらって.

万有引力の「万有」というのは「万物に有る」ということです.どういうことかと言うと,地球がリンゴを引っ張るのと同じように,リンゴもまた地球を引っ張るということです.ただし,地球はあまりにも重いのに対して,リンゴはあまりにも軽いので,地球とリンゴが引っ張りあったときにはほぼリンゴだけが動くのです.

こんな発想,どうしてできたのでしょう.リンゴもまた地球を引っ張るだなんて,よく思いついたものです.

リンゴも地球を引っ張るというのはとんでもないアイディアに思えますが,地球と月の関係,地球と太陽の関係を考えると,万物が引っ張り合うという万有引力の考え方は宇宙の何もかもを説明するのです.ケプラーが発見した天体の運行の法則は,ニュートンが見つけた万有引力の法則から導くことができました.のみならず,地上の落下現象もまた万有引力の法則から導けるのです.ガリレオが信じたように,天と地は同じ法則で説明ができるのです.

同年に,ニュートンは「色彩学」や「微積分学」も発明しています.色彩学については,バックナンバーの「くばたれ!ゲーテの色彩論」をご参考にしていただければ幸いです.微積分学についてもいずれお伝えしますね.

さて,リンゴ伝説ですが,ニュートンの友人,ウィリアム・ステュークリの記述が出どころと考えられています.彼はこんなふうに言っています.

私たちは庭に出て,リンゴの木の木陰でお茶を飲んだ.「なぜあのリンゴはいつも地面に垂直に落ちるのだろう」と,彼は自分自身に言い聞かせるように考えた.「なぜリンゴは横にも上にも行かず,常に地球の中心に向かっているのだろう.物質には引き寄せる力があるはずだ.そして地球の物質の引き寄せる力の総和は,地球のどの側面にもなく,地球の中心になければならない.だからこのリンゴは垂直に,つまり中心に向かって落ちるべきだ.物質が物質を引き寄せるなら,それはその量の比例でなければならない.だからリンゴは地球を引き,また地球はリンゴを引く.」

一方,大数学者フリードリヒ・ガウスはこんなふうに推測しています.

りんごの話は単純すぎる.そのリンゴが落ちようが,落ちまいが,そんな発見がそれで遅れたり,早くなったりすると思い込むのは別にかまわないが,真相はこんなところだろう.ある馬鹿で押しの強い男がニュートンを訪ね,偉大な発見にどうやってたどり着いたかを聞いた.そのときニュートンは子供じみた相手と向かい合っていることに気付き,追っ払いたいと思って,りんごが一つ鼻に落ちてきたのだと答えた.相手がそれですっかり教わったと満足して立ち去ってくれそうなことを答えたのだ.」

ま,真実なんてこんなものかもしれませんね.

闘うニュートン

ニュートンの同時代の科学者に,ロバート・フックがいます.バネを研究して「フックの法則」を発見し,ぜんまい時計を発明した人物です.1660年にロンドンで「王立学会(Royal Society)」が設立され,1662年に国王の勅許を得ると,ロバート・フックが初代「実験キュレーター」として迎え入れられます.

この頃,ニュートンも自らの発見を王立学会へ送るようになるのですが,フックから「それはワシが先に思いついておった」と横やりが入ります.

繊細なニュートンは,それでも一矢報いようと「私がかなたを見渡せたのだとしたら,それは巨人の肩の上に立っていたからです」と有名な言葉を返します.巨人とは先行する偉大な科学者たち……たとえばフックとか……を意味するのかと思いきや,ニュートンよりも背が低かったフックへのあてつけだったようです.ちなみにニュートンの身長は5フィート6インチ(168センチメートル)あったようです.

ただ,フックとの確執から一時期科学研究に嫌気が差していたニュートンは,1699年,56歳のときに,教え子チャールズ・モンタギューを頼って王立造幣局長官にしてもらっています.造幣局では,当時科学の一分野であった錬金術に手を染めるのですが,その傍ら官僚としても抜群の才能を発揮し,通貨偽造犯ウィリアム・シャローナーの検挙もしています.

お給料が増えたニュートンは,個人投資も始めます.これもなかなかうまく行ったようで,個人資産は後に6億円を超えるようになります.

1703年,ニュートンが60歳のときに,彼は科学の世界へ舞い戻ります.王立協会会長になっていたロバート・フックが亡くなった直後でしたから,ずっとわだかまりがあったのかもしれません.ニュートンはフックの後をついで王立協会会長になるのですが,なんと王立協会の引っ越しを敢行します.このときフックにまつわるものはすべて捨ててしまったそうです.やはり「恨み骨髄」だったのでしょうね.

エジプト考古学とニュートン

ニュートンのあまり知られていない功績に,エジプト考古学への貢献があります.

まずニュートンの時代はすでに現代のフィートが採用されていたことを覚えておいてください.いや,フィートは滅んでほしいですが,同じ名前で複数の長さがあるよりはましというものでしょう.

古代エジプトでは「キュビット」という長さの単位が使われていました.キュビットにはいろいろな種類があり,古代エジプトで使われたキュビットが実際にはどの長さだったのかは,長らく知られていませんでした.ニュートンは古代エジプトで使われたキュビットを1.719フィート,つまり524.0ミリメートルと求めました.

ニュートンは,古代エジプト人たちがピラミッドを建てる際に測量をしたはずなのだから,もしピラミッドの大きさをキュビットで測れば整数になるはずだと考えたのです.この発想は合理的であるだけでなく,古代エジプト人の性格をニュートンがよく理解していたように,僕には思えます.古代エジプト人って端数を上手に丸め込むんですよね.

ニュートン自身も「ニュートン式望遠鏡」という,実にうまくいろいろ丸め込んだ設計を発明しているので,ひょっとしたら古代エジプト人と気脈が通じたのかもしれません.

エジプト考古学では,当時の単位を使ったほうが便利なのでキュビットを多用するのですが,ニュートンの推測値に近い値を現在でも使っています.

さて,個人投資家としても優秀だったニュートンですが,1720年の「南海泡沫(バブル)事件」つまりはバブル崩壊で,結局は4億円ほど損をしたそうです.彼は

I can calculate the motion of heavenly bodies, but not the madness of people.

(天体の運動は計算できても,人の狂気は計算できない.)

語っています.「天」と「地」までは計算できても「人」は無理ということでしょうか.

人類史上最高の科学者でも,人のことはわからなかったし,それに人付き合いも下手だったと聞くと,なんかほっとしますね.

今週の書籍

「太古の昔から現在に至るまでの投機の狂気について見事に調べ上げよく書かれた本である.今,株式市場に関与している人はもちろんのこと,これから乗り出そうと考えている人にとっても絶対に読むべきものだ」――ジョン・ケネス・ガルブレイス
狂気の投機史 人はなぜお金が絡むと愚行に走るのか? 「バブル」という人間の強欲と愚行と狂気を描いた古典!
本書は17世紀から現在に至るまでの株式市場における投機の歴史を生き生きと描き出したほかに類を見ない魅力的な書である.投機の精神の起源を古代ローマにまでさかのぼり,それが近代世界によみがえった様子を年代順に,分かりやすくまとめている.近代でのバブルの始まりとは,1630年代にオランダで起こったチューリップバブルだった.
その後,ロンドンのチェンジアリーの株式売買(ワインが1インチのロウソクの火が消える直前に値を付けた者が落札者になるという方式のオークションで売られた),1720年の悪名高きサウスシーバブル(南海泡沫)と続く.サウスシーバブルではアイザック・ニュートンは「天体の動きなら計算できるが,人々の狂気までは計算できなかった」という有名な名言を残している.当時,法外な金額をふっかけたり,女性の貞操を守る保険と題してリスクを引き受けるブローカーがいた.また,お金として流通するクレジットノートや宝くじがあった.アレクサンダー・ポープやベンジャミン・ディズレーリ,アイバン・ボウスキー,ヒラリー・ローダム・クリントンなど,バブルで一獲千金を狙った賢明な投資家や愚かな投資家がいた.
金メッキ時代から狂騒の1920年代,19世紀の鉄道狂時代から1929年のウォール街大暴落,ジャンクボンド王のマイケル・ミルケンに代表されるカウボーイキャピタリズムや,日本のバブルであるカミカゼ資本主義,現代の情報時代に生まれたデイトレーダーまで,いつの時代にも存在した,またこれからも存在するであろう人間の飽くなき強欲と愚行と狂気の結末を描いた興味深い1冊!

ニュートンに泡を吹かせたバブルとは一体何だったのかと気になって,本書にたどり着きました.おもしろいので,よかったらゴールデンウィーク後半の読書にいかがでしょうか.

今週のTEDトーク

TED
TED
スペースXの宇宙船スターシップの太陽系探査能力は,大胆かつ斬新,そして超大型です.スターシップのような再使用型の大型宇宙船が可能にするのは,太陽系にたくさんある海を持つ星の調査から,宇宙の深部を観測できる大型宇宙望遠鏡の打ち上げまで様々です.宇宙における人類の次の大いなる飛躍がいかに実現し,宇宙探査の新時代が開かれるかを,惑星科学者のジェニファー・ヘルドマンが語ります.
TED

最近,残念なことに「スターシップ」の打ち上げ失敗があったのですが,それでもスペースX社は年内にもう一度スターシップを打ち上げるでしょう.そんなスターシップが目指す研究を紹介するTEDトークです.

Q&A

匿名質問サイト「マシュマロ」および質問サイト「Quora」で質問を受け付けています.普段はツイッターでお返事を書いていますが「ニュースレター読んでます」と入れていただければ,こちらのニュースレターでより長めの回答を書かせていただきます.

今週はこちらの質問から.

相手にそれとなく気がつかせる「上手な皮肉」を耳にしたことはありますか?
Quota

プロの画家が「あなたの絵は素晴らしい,どうか一生の趣味になさい」と言っていたのを耳にしました.

このレターの最後に匿名質問サイトへのリンクを貼っています.質問をお待ちしております.

一伍一什のはなし

改めましてTEDxDejima Liveにオンライン参加していただいた皆様,本当にありがとうございました.TED2023から送られてきた,ほぼ未編集のトークを共有させていただきましたが,ハプニングも収録されていて面白かったですね.また次の機会にもしたいと思っています.

今週は休暇と出張の関係で,音声版を一足早くお届けしました.音声版と言えば「科学系ポッドキャスト」コミュニティで実施されている「科学系ポッドキャストの日」のイベントに再び相乗りさせていただくことになりまして,次回は「論文」をテーマにお送りすることになりました.STEAM NEWSのほうも「論文」をテーマにネタを仕込みますので,ご期待ください.

僕はご縁があって5年前(2018年)にニュートンの学んだトリニティ・カレッジで講演をさせていただいたことがあります.もちろん感動したのですが,どちらかと言うとケンブリッジへ向かうロンドンの鉄道駅,キングス・クロス駅が萌ポイントでした.ハリー・ポッターがホグワーツ魔法魔術学校へ向かうスタート地点ですからね.

🍓

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では,また来週,お目にかかりましょう.

【謝辞】本ニュースレターは「STEAMボート」乗組員(STEAM NEWSサポートメンバー様)のご支援でお届けしております.乗組員の皆様に感謝申し上げます.

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金谷一朗(いち)

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